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11/1-15 11/16-30 12/1-15 12/16-31 end クリスマスイヴ 去年のイヴはキッドとして空を駆けていた。今年は黒羽快斗の姿で街を走っている。人並みを掻き分け、隣町の洋館へ向かってひた走っていた。 数十分前のこと。 宅配便を取りに出たついでにコンビニに行こうと家を空けた。パソコンを消し忘れるという大失態を犯して。のほほんと戻ってきた俺が見たのは工藤の打った一言だ。その文の通り玄関から工藤の靴がなくなっていた。工藤が見たであろう文字から工藤の思考回路を推測してコンビニの袋を床に投げ出し、俺は今こうしている訳だ。 卑屈になりやすいあいつのことだから、俺の心中など微塵もわからずに、邪魔者扱いされたと勘違いしているのだろう。ストーカーのいる家に帰って一人でまた泣いているのかもしれない。そう思うと走るスピードも速くなる。息を切らせて着いた工藤邸は主を失ったように薄暗かった。 「工藤…」 怪盗の業を生かして不法侵入を試みた。この家のことだから厄介な鍵を想定していたが、あっさり開いてしまった。こんなに警戒心が薄くていいのかと心配になる。家の周辺にはストーカーの姿は前と同様にないが、工藤は今何をしているのだろう? 気配を絶って家に入ると二階の部屋から明かりが漏れていた。 「工藤…?」 ノックをしてドアの前で反応を待つ。と、ドスドスと足音の後勢いよくドアが開けられる。 「何だよ!?」 思いの外元気な工藤が俺を睨んでくる。同居し始めてからも何度かされた目。俺の何かを不満に思って、それを言葉でなく目で表す時の工藤の癖だ。何も言わずにその目を見ていると、耐え切れずに工藤が噛み付いてくる。 「今日は女と過ごすんだろ!!?言いたい事があるなら早く言えよ!」 本当に工藤は元気だ。ここぞとばかりに俺に当り散らしているだけなのかもしれないが。 「えっと、まず最初に聞きたいんだけど…あれどれくらい見たの?」 「ああ!?あれ?」 「パソコンの画面。俺の観察日記」 「かっ、観察……?」 「それはいいから、どれくらい見た?」 「画面に出てた、今日の分のとこだけ…」 少し言葉尻を強くすると工藤の勢いが弱くなる。前からそうだった。尊大な態度を取っているかと思えば、陰では俺の顔色を窺ってキッドの事のように気を遣ったりするのだ。ついていたとはいえ勝手に日記を見た事に後ろめたさを感じているのもあるのだろうが。 工藤からドアを開けた時の強気は鳴りをひそめ、耳の垂れた犬のようにしゅんとしている。おかげで俺には余裕ができた。 工藤と今まで一緒に生活してきて、これだけは自信を持って言える。こいつは俺が好きなんだ。 「それで、工藤はどこに怒ってるんだ?」 「どこって…」 扉に半分身体を隠している工藤が、その縁をぎゅっと掴んで視線を泳がせる。 その仕草が彼を幼く見せて俺の表情が緩む。 「女と過ごすってところ?」 「そんなこと…っ…」 「じゃあいいんだ?」 「…………っ!」 全面に表れる嫌だ!って表情。目は口ほどにモノを言うとはいい言葉だ。 「顔見りゃわかるんだから、強がり言わないでよ…」 項垂れた工藤の頭に手を乗せて、癖になってしまったそれをする。 「…でも黒羽俺と二人になりたくないんだろ?いろいろ迷惑かけたし、べたべたくっついて気持ち悪い思いさせたからそう思うのも無理ないと思う」 「ちょっと待って、あの文だけで俺の全てを決められると困る。2ヶ月前から昨日までを読んだらわかると思うけど、俺工藤を迷惑とは思ってないよ。くっつかれて、てか甘えられて気持ち悪くもなかったし」 「でも…」 「とりあえず中入れて。それか下いこう?」 「部屋散らかってるから、下いく…」 「じゃあほら、早く」 多少強引に工藤の腕を取って自分の家の様にリビングに向かう。 「何で反対側座るの?」 家とは違う皮のソファが家と同じように向き合って配置されていた。その二対のソファに気付けば向き合って座っている。ハァと一息ついて工藤の隣に移動した。 「今はくっつかないの?」 「き…緊張して無理!」 工藤は下を向いて身を固くしている。今更何を緊張するんだか知らないが。昨日は自分から抱きついてきたくせに。今は俺から腰に手を回す。 「さっきの話だけど、俺が今日工藤と離れようとしたのは、お前がワイン飲むって言ったからだよ」 「…ワインが駄目なのか?」 「ワインで酔った工藤がやばいの。無意識に俺を誘ってるから」 「さっさそっ……俺そんなに酒癖悪いのか…」 「そうだね」 「じゃ、じゃあワイン飲まねー」 「それがいいね」 「あ、あの…黒羽?」 「なに?」 「顔が近くね?…それに手…腰…」 「工藤だって俺にくっついてただろー」 「ちょ…っ……!」 腰にあてた手にもう一方の手を重ねて工藤を腕の中に閉じ込める。焦って上を向いた工藤と眼が合ったので首を傾げて聞いてみた。 「嫌?」 「や、じゃない」 「嫌じゃないならどうしてまだ眉間にしわ寄せてんのかな?」 「…黒羽、いつまでここに居るんだ?」 工藤はいきなり神妙な表情で、目を伏せた。 「いつまでって、明日あっちに帰ればいいんじゃね?」 「一緒に?」 「ああ」 「俺は…今日からこの家に戻るつもりで来た」 「…え?ストーカーはもう平気なの?」 若干声が揺れたのが自分でわかった。俺の自信は工藤の素直な反応あってのものなので、こういう風に感情を隠されると途端に怖くなる。もしかしたら工藤は俺が考えているほど単純ではないのかと。 それから少し間をおいて、瞑った目を更にぎゅっと閉じた工藤が俺の予想だにしないことを告げた。 「ごめん、…あれ嘘なんだ…」 「へ?」 「ストーカー被害なんて遭ってない。黒羽と長く居る為の口実だった」 「それは良かった…って、え?でもなんで?俺と長く居るって…」 「俺を拾ったのがキッドだってわかって、最初は素のキッドに興味湧いたから暫く様子みるつもりで……っ、くろば?」 工藤が心を離そうとしている事に耐えられずに腕の中の存在を抱き締めた。 だんだんと赤く染まってゆく顔を見れば工藤の言わんとしていることがわかる。俺にだってその覚悟はできている。だけど今は元の生活に戻ることが先決だ。だからその事についてはその後にゆっくり話し合えばいい。 「嘘でもいいよ、あの家に戻ろうよ…」 半分嘆願のように言った言葉に工藤は望んだ答えをくれない。 「黒羽がそう言ってくれるのは嬉しいけど、誤魔化したままじゃ駄目だと思うんだ」 「誤魔化し?」 「俺、そのうちキッドのこと口出ししちまう。側にいるのに無視なんてできない。お前の他人をキッドの領域に入れたくないって気持ちはわかるけど、俺はお前の半分にしか関われないのは嫌なんだ。それを拒否されると寂しいし、そういうのってすごく悲しい。多分俺勝手に一人で泣く」 泣くと言いながら、工藤は泣いてしまった。その涙は今までで一番痛い。この俺が泣かせてるんだ。俺のちっさいプライドのせいで工藤を泣かせてしまった。 「あの時のこと、そんなに気にしてたんだ…悪かったよ。誤魔化してたのは俺のほうだ。あれは唯工藤にキッドの弱いところを見せたくなかっただけだから、拒否したんじゃないんだ」 「…」 「だから、キッドに何言ってもいいから今まで通り生活しない?」 「でも…俺これ以上家空けられない」 「なら俺がここにご飯作りに来るってのはどう?もちろん工藤がよければだけど」 そう言うと工藤が目を丸くした。引き気味だった身体を俺に近づけてぼそぼそと恥ずかしそうに喋る工藤の声を聞きながら、俺はひたすら工藤の頭を撫でていた。 12/25の日記につづく。 |