焔の瞳





「紹介に預かりました、マリュー・ラミアスです。先の大戦と今回の戦いではアークエンジェルの艦長をしておりました」
「あっ、あなたは!」
 いきなり俺の隣に居たアーサーがとぼけた声を出した。皆、ぎょっとしてそちらの方を見る。
「アーサーさんには以前オーブでお会いしましたね」
「…はい」
 にこっとアーサーに微笑み、彼女は席についた。その隣にいるのは、金髪で顔に傷のある男。名前をムゥ・ラ・フラガと名乗った。その隣が片目を潰した声の大きな男。アンドリュー・バルトフェルト。こっちのクルーが「エンディミオンの鷹」とか「砂漠の虎の…?」とか言っているのが聞こえたが、俺には何のことなのかよくわからなかった。こんな時、いつもならすぐレイに聞いていたが、その彼は今ここにはいないのだ。

「訳合って脱走したが元ザフト、現ジャスティスパイロットのアスラン・ザラだ」
 静寂の中響いたのは聞き馴染んだ澄んだ声。オーブの軍服に身をつつむ藍色の髪の人。ザフトから逃げ出したくせに、腹が立つほど堂々としている。文句があるなら言えとばかりにこちらを見据えるから余計にイラつく。端的に言って座ったアスランに軽く溜息を吐いて、隣の青年が立った。
「フリーダム、パイロットのキラ・ヤマトです」
 一瞬、ミネルヴァがざわついた。それ以上に俺の心が早鐘を打つ。
 オーブの石碑の前で会ったあの人だ。大きなアメジストの瞳、揺れる薄茶色の髪、穏やかな声。何もかもが一瞬で蘇る。
「残りの者も皆二艦のクルーです。後の方の紹介は省かせていただきますわ」
 ラクス・クラインの声が遠くで聞こえた。次いでこちらの紹介が始まり、俺は適当に名前を言って、座ったのだと思う。よく覚えていないが。
 俺は、気がつくとずっと彼を見ていた。ステラの敵、一度殺めたはずの彼を。

 もっと戦々恐々とさせられるのかと思ったのに、その瞳はただただ優しかった。
 眼が合う度、心臓が大きく脈打つのが腹立だしくも面映い。
 キラ・ヤマト。彼が、フリーダムのパイロット―――――――

「ねぇ、シン!」
「あ、何?ルナ」
「あのキラさんてアスハ代表に似てると思わない?」
「そうかな…?」
 ひそひそと話しかけてきたルナの言葉に同意はできなかった。
 似てるか?キラって人が中性的だから顔はちょっと似てる気もするけど、雰囲気が全然違う。アスハは思っていることを何でも口に出して言うタイプだけど、あの人は内に秘めていそうだ。肝心な時だけ口を開いて考え抜いた真意を伝える。そんな人な気がする。
 対戦した経験からか不思議とそんな事を考え、それは確信に近かった。
 俺は彼を憎めない。これだけ心が揺れるのは、彼を意識しているから。会う前の憎悪が刻々と薄まってゆくにつれ、ステラに対する罪悪感が増えるけど。次、もし戦いになっても俺は以前と同じように彼に刃を向けるのだろうか?自信がない。
 今になって、アスランがあそこにいることが酷く自然に見えてきた。 
 アスランがフリーダムと戦うことに躊躇していた訳もわかるような気がした。
 あの人を傷つけるのは、恐い。

「では、本題に入りますわね。皆さんのご理解を頂くには時間のかかる事かもしれませんが…」
 ラクス・クラインの表情が今日会って初めて躊躇いを見せた。彼女が助けを求める様に視線を向けたのはキラ・ヤマトで、彼が小さく頷くと、彼女はまた毅然と俺達に向かって話し出す。それは、突拍子もなくて、俄かに信じられないが、俺は少しの希望を抱いたのだった。




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