焔の瞳





 敵であったクライン一味の登場にミネルヴァのクルーは落ち着かないでいた。既に相手の姿はガラスの向こうには無く、あちらがこの部屋にやって来るか、こちらが呼ばれるのを待つだけだからだ。グラディス艦長亡き今、この場を纏める力のある者はいない。
 冷静にその様子を眺めているつもりの俺自身も、どうしていいかわからない。今は唯、ルナの手を取ってじっと座っていることしかできない。

 落ち着きを取り戻さぬ裡に、客間にノックの音が響いた。一瞬でクルーに緊張が走る。
「わたしだ。アーサー、ミネルヴァは全員揃っているか?」
「は、はひぃ!」
「では、あちらの準備が整ったようなので別の部屋に案内する。わたしについて来てくれ」
「わかりました!」
 アーサーはぎこちない動作でアスハ代表の後ろを歩いた。俺とルナは最後尾を歩く。一歩一歩と踏み締める度、彼らに近づいていると思うと堪らなく逃げ出したい衝動に駆られる。だが、手の平に伝わる温もりを前に俺は覚悟を決めた。

「ラクス、ミネルヴァのクルーを連れてきた」
「どうぞ、お入りになって下さいな」
 ラクス・クラインのよくとおる声にアーサーがさらに身体を硬くした。開けるぞ、と合図を送るアスハに何度も首を縦に振ってやっと答えている状態だ。
「アーサー、取って食おうというわけではないのだからもっと普通にしていろ…」
「すすすすみません!」
 果して、その扉はアスハの手によって開かれた。

「皆さん、初めまして。私はラクス・クラインです。どうかそちらに御掛けになって下さい」
 椅子をたったラクス・クラインがテーブルの反対側に手を向けて告げた。
 長い机の片側に彼らは座っていた。前に座っているのが重要人物で、後ろにいるのがついて来ただけのクルーなのだろう。前にはラクス・クラインやアスラン、さっき見た艦長らしき人物の姿がある。
 俺たちも自然に位の高い者から順に椅子にかけていった。俺はフェイスだけど一応アーサーをたてて先頭にしたが。すると俺の前にいた優しそうな顔をした艦長らしき人と眼が合った。軽く微笑まれたが、直に視線を逸らす。と、その隣に居た金髪で顔に傷のある男に妙な既知感を感じた。
「シン…」
「ルナ、後でいっぱい話せるさ。今は少し我慢したほうがいい」
 後ろの方に見えるツインテイルは恐らくメイリンだ。前の人が邪魔で顔までは見えないが。ルナは肉眼でメイリンの生を確認して安堵したようだった。
「皆、戦争は終わった。一度は戦った相手かもしれないが、今日はどうか冷静に話をして欲しい。オーブ代表としてわたしはそう望んでいる。では、後はラクスに任せる」
「はい。カガリさんもお時間があればどうかここでお聞きになっていて下さい」
「ああ、そのつもりだ」
「では、先程も言いましたが私はフリーダム、ジャスティスを保有するエターナルの艦長ラクス・クラインです。以前、放送ではデュランダル議長と私を演じていたミーアさんの演説に割り込み皆さんを混乱させてしまって申し訳ありませんでした。今日は皆さんにお話があって、こちらに集まって頂きました。その話は後ほど致します。最初に簡単にこちらのクルーを紹介させて頂きますわ。では、マリューさんからお願いします」
 華麗な容姿を裏切る、断固たる物言い。ラクス・クラインにこちらのクルーは圧倒されていた。唯でさえ、ファンの多いザフト軍なのだ。彼女の話を無下にするやつなどいない。
 彼女に振られたマリューと言うらしい女の人は、俺の前に座っていた女性だった。






N E X T