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「バレ、ない……よな?」 そうだ、気付かれなきゃいいんだ。こんなもん。 工藤邸のバスルームを出てすぐの大きな鏡の前で、新一は自分と向き合っていた。大丈夫、大丈夫と呪文のように繰り返す姿は傍から見ると不気味である。 はぁ…と一つ溜息を吐くと、予定より早く現れた来客を出迎える為、シャツの襟をきゅっと締めた。 ああ、愛しの新一〜、新ちゃん〜、一週間ぶりだぁv その頃インターホンをドドドドド!と連打する来客は緩みきった表情でお泊りセット片手に工藤邸の門に立っていた。どうやら嬉しさのあまり頭のネジが抜けてしまったらしい。 会ったらまずハグハグして、匂いを嗅いで、キスしてあわよくばそのまま……エヘヘヘv 『…どうぞ』 「はいはーい、今すぐ快斗くんが会いに行くからねvv」 門についたカメラににっこり笑いかけ、開いた門を押して一目散に玄関へと駆けて行く。 隣の科学者が庭からそれを見て「盛りのついた犬ね…」と漏らした事は快斗の知るところではない。 ガチャ 「よう」 「しんいち〜!会いたかったよ〜ぅ…ラブマイはにぃvv」 「はいはい」 新一は抱きついてきた快斗を慣れた様子で受け止めた。ぽんぽん頭を撫でると、ますます快斗が顔を綻ばせる。 「新ちゃん、一週間分いちゃいちゃしようねv」 そこで微笑ったのが良くなかった。実は新一も一週間振りという事で快斗の顔を見た喜びから、ついありのままの感情を表情に出してしまっていたのだ。それは、快斗を喜ばすには充分で。 「新一…」 「かい………っン!」 とうとう玄関で盛ってしまったのだ。 いきなり深いキスを仕掛けられ、新一の身体は玄関の扉に押し付けられる。 唇から頬、首筋へと快斗の口が下りていくと新一は快斗の肩を離そうと腕に力を入れた。だがスイッチの入った快斗の力に敵うわけはなく。 やべぇ………!アレがバレるっ…! 「ん?なんかいつもと違う匂いがする……」 「やっ、…ダメ!」 シャツの襟を開こうとする快斗から逃れようとしても、扉に阻まれて背を擦り付けるだけに終わる。せめてと思い両手で襟元を掴んだ。 「何で隠すの?新一」 至って普通の声で、有無を言わさぬ威圧を感じさせる快斗。新一が顔を赤らめて逸らした事に眉を顰め、固く組まれた指に己のそれを乗せて、ゆるゆると絡まった紐を解くように首元から新一の手を退けた。 「なんだよ、これ…」 明らかに怒気を孕んだ声。低く絞り出されたそれに新一がビクリと肩を揺らした。 白い肌に散った赤。一週間前に自分が残した跡よりも鮮明に浮かぶシルシに快斗は襟を握る手を震わせた。 「自分でつけらんないよな、こんなとこに」 ツ、とその部分を撫で、新一を射抜かんばかりに見つめる。 「ちが、…これは…っ」 「どう違うのか、ベッドの上でじっくり聞こうか?」 「誤解だって……言いたくなかったんだけど、これは―――――」 うわ、快斗のやつマジでキレてるよ。こえー。これが本物だったら俺どんな目に遭ってたんだか…考えるだけで恐ろしいな。 新一は大きく息を吐くと、淡々と事の真相を話した。 「え??あのー…」 「だから蚊だ。刺されただけだっつーの」 「嘘だ…なんでそんなところだけ…」 「俺が知るかっ!!ばかやろう!」 新一は言い終えるとぐいっとコーヒーを一飲みして快斗を睨んだ。 何か言う事はないのか?との視線を向けると、間を置かず快斗が口を開く。 「大変、申し訳ありませんでした…」 「何に対してだよ?」 「新一様を疑って勝手に怒ってしまってゴメンナサイ」 快斗は床に手をついて深々と頭を下げた。満足した新一は新しいコーヒーをいれたカップにミルクと砂糖を入れて快斗の前に差し出す。 「久々に会ったのにこれだからなぁ」 「だって、首に赤い点々つけてたら焦るじゃん!」 「洞察力不足だ」 「新一が隠すから余計に心配だったんだよ?何かあったんじゃないかって…」 「もしお前が俺の言う事聞かずに暴走したら止めらんねーから黙ってたんだろが!」 「そんな人をケダモノみたいに…」 「その通りだろ?」 「そんなぁ……」 快斗はしゅんと項垂れてコーヒーに口をつけた。ちびちびと飲んでいると徐々に眉間にシワが寄る。その様をつぶさに見ていた新一は今度は何だと首を傾げた。 「ムカつく…!」 「あん?」 「よく考えたら蚊のヤローども新一の血吸ったんだよね!?しかもそんな場所を!」 「おい、血を吸うのはメスだけだぞ」 「女だからって許せねー!狙って首周りを刺したとしか思えない!くっそー、何て羨ましいっ…」 「蚊が狙うわけねーだろ…」 「新一!一体何処でどんな風に刺されたんだ!?」 こうなった快斗はもう止められない。そう悟っている新一は素直にその時の状況を説明した。 「窓全開にしたまま寝てて…」 「何処で!?」 「一階のテラスの側で…」 「その時の状態再現してみて!」 「いいけど…」 いやに熱のこもっている快斗を気にせず、新一はご丁寧にその時のようにシャツのボタンを外し胸元が露わになった状態でラグにごろんと仰向けに横になった。 その瞬間、キラリと何かが光ったような気がして、快斗を見て、激しく後悔することとなる。 新一がやばい!と上体を起こそうとした時にはもう遅く、既に快斗の顔が眼前に迫っているではないか。冷や汗を垂らす新一とは対照的に、快斗は喜色満面に言い放つ。 「じゃ、今から俺が他に刺されてるとこないか調べてあげるv」 「い、いや…」 調べていらねぇ… ヒクと引き攣った新一に覆いかぶさると、快斗は一週間ぶりの新一を堪能するのであった。 * おまけ 「そういえばなんで新一からいつもと違う匂いがしたんだろ?」 「ああ、お前それで気付いたんだっけ」 本当犬みたいなやつ…。 「あっ、今犬みたいって思ったろ!んで、なんで?」 「痒かったから大量にキンカンつけたんだよ」 「へぇ」 ペロリ 「うっひゃあ!」 「ホントだ苦いや」 「この変態がっ!!」 バコン☆ こうして、やった直後も恥じらいを忘れない新一が好きだよ…と思いながら快斗くんは新ちゃんと並んで夜を過ごすのでした。 我が家では虫さされにはキンカンですよ。常時2本置いてあります。 |