unlucky boy





 見知らぬ土地で、目についた綺麗なそれを持って君の家まで。

 歩くたびに揺れるそれが少し心配で、いつもよりゆっくりと歩いた。これを渡した時のあの人の反応は予想がつく。何で男の俺にこんなものを買って来るんだ!と怒り、それを片手に歩いてきた自分に恥ずかしい奴。と呆れるのだろう。そして最後には、まぁ、一応ありがとう。と素っ気なくも綺麗な笑顔で窓辺にそれを飾ってくれることだろう。その綺麗な手で飾られたそれに満足して笑うと彼はきっとこう言う。いつまでもそんなところにいないで上がれよ。茶ぐらい出すぜ?と。この上なく自分を誘惑する魅惑的な声で、そのしなやかな肢体で。

「はよ工藤んち着かんかなぁ〜」

 鼻歌交じりに米花の街を闊歩する。通り過ぎる人々からの視線なんてさらっと受け流しだ。いつもの事だが荷物なんてほとんど無くて、この身とポケットに入った財布くらいだ。それだけあれば彼に会うには充分。ほんのひと時の再会をしたいが為に、この人の多すぎる東京に来ているのだから。

 おっ、見えてきたで。あの回りと調和してへん洋館が・・・

 彼に会えると思ったら、少し心臓の鼓動が早くなる。素直な自分の反応に苦笑して、一歩一歩縮まる距離にこの上ない悦びを感じる。これ程までに自分に影響を与える人物は後にも先にも彼一人だろう。行き過ぎたこの想いを口に出そうとは思わない。今は同じ探偵という役割を介して隣に居られればそれでいい。多くを望んでそれが壊れるのはとても辛いことだと思うから。
 だけど、ふとした時に、それは唐突に、この腕に掻き抱いてしまいたくなる。無防備に向けられた笑顔に。信頼されていると実感した瞬間に。憂いを帯びた瞳を見てしまった時に。怒涛のように押し寄せる感情が決壊しないように必死に自身を戒める。そんなどうしようもない一瞬に、熱を孕んだ目で見てしまう。その事だけはどうか許して欲しい。

 なーんてポエマーっとったら工藤がどっか行ってまうわ・・・

 なにせあの人は忙しい人。今も家の中にいるという保障はない。何処かで事件に携わっているか、幼馴染みの買い物に付き合っているのかもしれない。それなんに心臓ばくばくさせてるオレってほんまにかわええやつ・・と工藤邸の門に視線を移した時。

「待って、黒羽っ!!」

 切羽詰った声は紛う事無き焦がれる彼のもの。聞きなれない名前を呼ぶ声に反射的に身を隠す。大きく揺れた腕のものからの香りが鼻腔に届き仄かに辺りに充満した。

「・・・・・・なんだよ?」

 低く、感情を押し殺した声が聞こえた。新一の声に似て凛として耳に心地よく響く。だけどそれは不満と露わにしている。

「やだ・・・行くな・・・」
「快斗って呼べよ」
「快斗、行かないで・・・」
「新一・・・ごめん。ちょっと頭冷えた・・・戻ろう?」

 聞いた事のない新一の甘い声。弱さを曝け出した言葉。縋るような強請るような誘うような甘い甘い声。快斗というらしい男の新一をいとおしむ声。
 全てが不快で、塀の影から彼らを睨んだ。が、すぐにそれを後悔することとなる。

「・・・・・・ン・・・っ・・・かいと、外なのに・・・」
「続きは中にするからさ」

 新一の頭を撫でてその男は楽しげに言った。それに抵抗をしない新一。寧ろ、頬を染めて嬉しそうで。男は至極自然に新一の肩に腕をかけ、新一を促してまた大きな洋館へと消えた。

 残された平次の手にはあいも変わらず花束が。
 その芳香だけがただ存在を主張していた。




「・・・・・・・・・運の悪い奴」
「・・・っあ・・・・・・な、に?・・・っいと・・・」
「なんでもないよ、新一」




 室内の濃厚な雰囲気を他所に外には変わらずに花束だけが芳香を放っていた。





 end

















うーん・・・