ヒラリヒラリと舞うさまはさながら蝶のよう
さしずめ俺は蜘蛛といったところだろうか
LIKE A SPIDER
「御機嫌麗しゅう、名探偵」
「来たか、キッド」
ビルの屋上での邂逅はこれで何度目か知れない。その度に月を背に不敵に笑う怪盗に胸を躍らせているのは俺だけが知っていればいいこと。
「今日の獲物はもう不要ですのでお返し致します。では、またお会いしましょう」
「待てっ、キッド!」
宝石を布に包んで新一に返すとキッドはシルクハットを深く被り屋上の柵の向こうへと移動した。だが新一が側に寄り腕を掴むとあっさりと捕まった。
「キッド・・・・・・・?」
「なぜ、あなたはいつもそんな眼でわたしを見るのですか?」
キッドの言葉に新一は固まった。いつもより近い怪盗に赤面し、モノクルや衣装や深い色をした眼に視線を奪われる。
「いつも、普通の顔してるけど・・・?」
「そうでしょうか?あなたはわたしを追い詰めながらとても辛そうな表情をしてらっしゃるように感じますが」
「顔に出てたのか・・・・・」
「では・・・・・」
「ああ、お前を捕まえるのは辛いよ。蜘蛛になった気分になる」
「蜘蛛・・・ですか?」
「そう」
キッドはそれきり黙ってしまって、遠くを見遣る新一の横顔を眺めていたが、無粋な警察のサイレンにより暫しの邂逅は終了せざるをえなくなる。
「タイムリミットですね」
「じゃあな」
掴んでいた腕を離し、柵から離れる新一にキッドは目を見開いた。
「名探偵、止めないのですか?」
「いい、今日は見逃してやる」
「ではお言葉に甘えて行かせていただきます」
羽を広げたキッドは顔だけ振り向くと迷った風に新一に告げた。
「最後に一つ。あなたは蜘蛛というより蝶だと思いますよ?」
その言葉が風にのって新一の耳に入る頃にはキッドの姿は消え、遠くネオンに紛れて白い羽を羽ばたかせていた。
「冗談だろう?蝶はお前だろ?」
夜に羽ばたく蝶に魅了され、巣を作って待っている自分の元に現れる。だが清廉なその羽が粘着質な糸にかかることは無い。
お前が罠にかかったらどうしようか?
仮面を剥いで、素顔を曝け出し思いの丈でもぶちまけようか。
だがそれは叶わぬ夢。怪盗に恋した自分を神様はとうに見放した。
怪盗が捕まるのが先か、俺の命が尽きるのが先か――――その答えは神のみぞ知る
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