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19. 噂 目的地に到着するなり、俺はボタンを連打した。 ピンポピンポピンポピピピピピピーー 『ちょ、この押し方は新一だろ!』 「そうだよ!早く開けろ!」 『開いてるから入ってきなよ……』 玄関を通り抜けると、ずかずかとリビングへと直行する。快斗は椅子に座って呑気にテレビを見ていた。 「新一、毎回インターホン鳴らしすぎ」 怒っている風ではなく、口元に笑みを湛えて快斗は言う。 振り向いた、この角度から見る快斗は格別にかっこいい。 「どうした?新一?」 「はっ…そうだ、聞いたぞお前!」 思わず見惚れてしまい、今日こうして乗り込んできた目的を忘れるところだった。 「今日、また告られたんだってな!?」 「あー…うん、まぁ……」 「やっぱり本当だったのか……」 ジーザス。なんてことだ。週に何度告られれば気が済むんだこいつは! いつもこうして確認しにきては、内心冷や冷やしている俺の身にもなってほしいものだ。 頭を抱えて煩悶する俺を、快斗はにこにこ笑いながら見ている。 「新一、いつも何処で聞いてくるんだ?すげー情報早いよなー」 「勝手に耳に入ってくるんだよ!こっち(帝丹)でもお前は有名だからな」 「え、そうなんだ?」 「くそー、おもしろがってんな……で、断ったんだよな?」 「うん」 「ふん!ご苦労なことだなっ」 「なに怒ってんの?」 「怒ってねー」 しっかりと断っていたことに一先ず安心し、快斗の隣に腰掛ける。 だがそんな俺の気持ちを嘲笑うかのように快斗が言った。 「俺、次好きだって言われたら、その人と付き合おうかな」 「はぁっ!!?」 「と、思ってるんだけど」 「なんで!?めんどくせーから誰とも付き合わねんだろ?」 「別にめんどうなわけじゃないって。ただピンとこなかったっていうか」 「ならなんで今更…」 「断ってばっかりじゃ駄目だと思うんだ。もっと前向きに、とりあえず付き合ってみるっていうことも大事かなと思って。もしかしたらそれがすごい大事な人になるかもしれないだろ?」 「そうかもしれないけど……」 やばいぞ。快斗が変な方向にポジティブになっている…。なんとかして阻止しないと、変な女に盗られちまう! 「うん、次だな次。どんな人が来てもオッケーするよ、オレ。人間ならなんでもいいや」 「ちょっ、待て!な、なんでも?小学生でもか?」 「や、それは犯罪だから…」 「婆さんは?」 「上限はなし」 「言葉の通じないどっかの少数民族でも?」 「愛に国境も文化も性別も関係ないよ、新一君」 「性別?なら男でもいいのか?」 「うん。やろうと思えばエッチもできるし」 「ぇ、エッチ…とか言うなよ…」 「ま、オレを好きって言ってくれればだけどね」 「白馬とか…?」 「なんでここで白馬?でもまぁ、あいつは有り得ないよ。今紅子に求愛中だから」 「じゃあ、……えっと、俺……は?」 「アリ」 「あり、なのか?」 「超あり」 「ちょう?超?」 「ていうか、新一、そこまでいくのに時間かかりすぎだよ」 さっきから俺の頭には疑問符が飛び交っている。快斗の言葉がまったく理解できない。結局俺って、誰でも来い!と自棄(?)になってる今だからギリギリ相手できる存在ってことか? …なんだそれ!?失礼な!俺がこんなに一途に思ってるってのにそれって酷くないか? 「おいおい新一。なに眉間にシワ寄せてんだよ?」 「……お前、誰でもいいって言ったな?」 「うん」 「二言はないな?」 「うん」 確認を重ねる度に快斗の顔が喜色に満ちていく。俺を振り回すのが余程楽しいらしい。 「なら俺と付き合え」 「いいよ」 それはちょっと…と苦笑いをされ、やっぱり口からでまかせじゃねーか!と怒る予定だった。 俺が言い寄ってくるはずがないと高をくくり、俺をからかっているものと思っていたが。快斗は心底嬉しそうに笑っている。焦って言葉を撤回するとばかり思っていた俺は、暫し無言で快斗を見つめた。 「ん?なに?さっそくチューしてもいいの?」 様子が普段となんら変わりないものだから、俺はまだからかわれている気分になる。 ムッとして文句を口にしようとした俺を、快斗の行動が阻んだ。 何故か、快斗の手がこめかみ辺りの髪に触れ、そのまま俺の左頬を包む。 「よかった。ちゃんと言ってくれて。ほっとかれたらどうしようかと思った」 声色が1オクターブ低かった。そのせいか、いつもより耳に響くようで落ち着かない。 「なんなんだよ、快斗。お前さっきから全然意味わかんねぇよ…」 「誰でもいいなんて嘘。俺は新一がよかったの」 快斗が笑って俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。 fin (070407) |