18. 想い






 目を覚ましたら、寝癖のついた黒羽が目を丸くして俺を見ていた。二人とも一糸纏わぬ姿。床には脱ぎ散らかした服が散乱している。
 黒羽は片手で上体を支え、俺を見下ろす形で固まっている。
 俺も身体を起こし、黒羽をじっと見据えた。
 昨日の事ははっきりと覚えている。黒羽が今何を考えているのかも、なんとなく予想がつく。

「あ、あ、あああの……その………」
「なんだ?」

 俺の身体――昨夜の名残の残った――を見て赤くなり、その後蒼くなった彼は、突然両手の平をシーツに押し付け、その間に頭を置いた。いわゆる土下座というやつだ。

「ごめん!」
「……」
「俺、ただやりたかったわけじゃなくて…その…」

 知っている。そんなことはとっくに。なのにお前は本当のことを言おうとしないから。俺はとてももどかしい気持ちになるんだ。

「昨日の事は本当に悪かった。誤って済む問題じゃないけど…」
「顔上げろよ」

 黒羽は俺に言われるまま顔を上げた。その情けない面を両手で挟んで、口づける。
 軽く重ねただけの口唇を離し、目を合わせると黒羽はぽかんと口を開けていた。丁度いいので再び口唇を重ね、今度は黒羽の舌を舐める。昨夜の延長のようなその行為はとても気持ちが良い。俺は夢中で黒羽の口内を味わった。まだ状況を飲み込めていない黒羽は俺の行動に戸惑っている様子だ。

「お前…」

 口を離し、恍惚の表情で見つめると、また黒羽の顔が赤くなる。こんなわかりやすい反応をしておいて、俺への気持ちを隠せていると思っていたこの男。

「なんで俺を押し倒したのか、よく思い出せよ」
「え?」
「なんでもっと攻めないんだよ?このままなかったことにするつもりか?」

 いっそ咎めるような視線を注ぐ。肩に手を置いて顔を近づけると、黒羽が気まずそうに目を逸らした。
 昨日と同じだ。風呂から上がった後、緩くバスローブを羽織っただけの格好で黒羽に近づいてこいつを煽った。こちらを見ようとしない黒羽に執拗に肌を見せた。

「昨日お前が理性を飛ばす切欠を作ったのは…俺だろ?」

 そう、誘ったのは俺。

「なぁ、もっと俺を欲しがれよ」

 消え入りそうな声でそう言うと、俺はそっと黒羽の胸に顔をうずめる。
 欲しいだろう?
 俺の思い過ごしじゃないだろう?
 実のところ、100%の自信はない。俺が黒羽を求めるあまりそう勘違いしている可能性も捨てきれない。俺の勝手な自惚れだったとしたら、とんだナルシストだ。だから、確実な言葉が欲しいんだ。
 黒羽は今、俺に縋りつかれたまま固まっている。
 反応が無いということは、そういうことなのだろうか。

「ごめん……お前が忘れたいなら、そうすればいい…」

 忙しなく脈打つ心臓の音が心地良かったが、黒羽の背中で繋いだ手を離し、胸から顔を離す。
 二つの体が離れてゆく。涙が出そうだった。
 指先が黒羽の脇腹を辿り、とうとう接触面積がゼロになろうとしたとき、手首への強い圧迫感とともに、自分の背に熱と痛みを感じた。
 気付けば黒羽に抱き締められていた。
 あまりにきつく抱くから、背中が痛い。だけど気持ちがいい。痛みと快感は似ているのだということは、昨日黒羽から教わった。

「……っくりさせんなよ、工藤」
「え…?」
「驚いて声も出なかった」

 首にかかる声が熱っぽい。

「工藤……俺は…」

 拘束が一層強くなる。黒羽は静かに俺の耳に愛の言葉を注ぎ込む。
 そうだ、これが欲しかったんだ。
 俺はずっとずっとこれを待っていた。




fin








やりとりは全て全裸のまま行われています(070225)
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