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15. 優しさ はぁ…と溜息を吐いて、リビングのソファに寝転ぶと、上から自分と似た顔の男が覗き込んできた。 「…………ダレ?」 「あんたの涙を止めにきた天使だ」 「は??」 「名前は快斗」 冷たくもないが、笑っているわけでもない、不思議な表情でその男は悠然とそこにいた。天使というわりには真っ黒な服を着て、なかなかいい態度をしている。もしかすると背中に申し訳程度についているのモノは羽だと言いたいのだろうか。 数ある疑問を押しのけて俺はやっとの思いで言った。 「俺は泣いてない」 「泣いてるだろ?隠しても俺にはわかるんだぜ?」 きっぱりと言い放った男を見る。全てを見透かしたような強い眼差しに、俺は否定の言葉を飲み込んだ。 よく見ると端正な顔立ちをした男。随分胡散臭いが、ふざけるなと追い返そうとしないのは、何処かでその存在を認めているからかもしれない。若しくは、彼に何かを求めているのか。 「………えっ、何…?」 憮然としている俺の頬に、快斗が手を宛がった。 「じっとしてろ。直に俺のことは忘れる」 それは嫌だ。何故かそう口にしようとしたが、その前に頬に暖かい感触が伝わった。 「あれ、俺いつ帰って来たんだっけ?」 見慣れた天井を眺めながら呟いた。 床には白い羽が落ちていた。 「またあんたか…」 「お前は、………ええと、天使の快斗…?」 寝ようと二階に上がり、自室のドアを開けると、中にいたのは以前の天使だった。今の今まで頭から消えていた存在が、その姿を見とめた途端、クリアに思い出された。そして何故か、彼を見ると胸がざわついて落ち着かない。 「俺を思い出したのか…?」 「ああ」 ひどく驚いた様子で天使は言った。それから難しい顔になって俺を見つめる。じっと見られる居た堪れなさに視線を逸らすと、快斗は前と同じように俺の頬に手を置いた。 「ちょっ、ちょっと待て!」 「なに?」 「快斗、今回はどうしてここに?」 「俺のすることは一つだ。前と同じだよ」 「俺がまた泣いてるってことか?」 「そう。こんな短い期間で俺が出向く事になるなんて、あんたよっぽど…」 「よっぽど?」 「気付いてないのか…重症だな、これは」 やれやれといった表情で、快斗は俺を見下ろす。頬に感じる快斗の指先の感触に、ドキドキと心臓がうるさく鳴るのはどうしてか、この時わかってしまった。 狼狽える俺を他所に、困った顔とは裏腹に優しい色をした群青の眼が近づく。 「え、何…?」 「新一の心を治すんだよ」 「どうやって?」 「頬に口づけて」 ああ、そうだった。この天使、前は有無を言わさず頬にキスをくれて消えてしまったのだ。そしてその後俺は記憶を失った…。 「忘れたくないんだけど…」 「え?」 「俺の記憶またなくなるんだろ?」 「それが決まりだから……本当なら前のこと思い出すのも有り得ないんだけど…」 「また来てくれたら、また思い出すかな?」 「俺としてはそんなに頻繁に泣かないで欲しいけどね…」 労りの表情で、今度こそ快斗は俺の頬にキスをした。 「……俺、昨日の夜何してたんだっけ?」 寝る前の習慣(読書)をした形跡がない。なにか幸せな夢を見ていた気もするが、なんだか切なさが残るようで、朝から妙な気分だ。 まぁ、いいか…と楽観的に考えて体を起こすと、布団の上に白い羽が二枚落ちていた。 それを掴んだ俺は、頭に疑問符を浮かべてそれを窓から外に投げた。 fin Thanks 虹色の天使 / くるり (060527) |