13. 糸
(黒羽先生と優等生工藤君)







 ムカつく。

 よく晴れた空。雲はうっすらと筋になって空を横断している。
 新一は心地の良い風に誘われるように、開いていた窓に近寄った。
 サッシに手を置いて、空を見上げたまではよかった。微かに聞こえた声に視線を地上に下ろした途端、新一の顔は不快に歪む。
 ここは中央棟と特別棟を繋ぐ渡り廊下。5階のここからでは小さくしか見えないが、この真下、特別棟一階の入り口で生徒ら数人と談笑しているのは教師にして新一の恋人、黒羽快斗その人であった。

 呼んだのはそっちなのに、なに楽しそうに喋ってんだよ。

 新一は頬杖をついて下を見下ろし、眼鏡越しにその光景が早く消えることを祈る。
 しかし、待てども終わる様子のないことに辟易し、眼鏡をとって今度は鋭い視線で睨む。時折横を通る生徒が珍しい裸眼の新一に見惚れている事など気付きもせずに。

 なんで気付かないかなー……

 次第に諦めの表情になった新一は、睨むのをやめ、ただただ下を眺め始めた。
 全ては時間にすれば数分の出来事なのだが、新一には数時間に値するほど長い。
 下には変わらずに体操着を着た生徒と黒羽が話をしている。笑ったりふざけたりと楽しそうに。学校では最も歳の近い教師である黒羽は生徒に人気がある。男子校ということもあり恋愛対象に見られることもしばしばあった。
 黒羽は運動部の副顧問をやっている。体操着の生徒は恐らくその部員。“副”故に今までは特に仕事はなかったが、今は熱血な本顧問が怪我のため長期休暇中であった。それが、今まで滞りなく会えていた自分達の環境を壊しているのだと結論付けて、新一は一つ溜息をこぼす。

 俺たちって、全然シンクロしてないんだな。

 双子のように特別な意思疎通ができるとでも思っていたのか。自分の考えに馬鹿馬鹿しさを感じ自嘲する。

 なにかで繋がっていればいいのに。
 そうすれば、声なんて出さなくても気付いてくれる?

 新一はありもしない“なにか”を求めて、手を伸ばした。細く、でも僅かにある線を掴んだつもりになって、拳をそっと引く。
 黒羽が上を見上げた。
 眼が合う。ようやっと、二人の視線が絡み合った。
 瞬時にぼっと新一の頬が紅潮する。

 嘘だろう………?なんだよ…なんで今気付くんだよ…!

 驚いた様子の黒羽から逃げるように、廊下の突き当たり、第二図書室へと駆けた。
 息を切らせた黒羽がやってくるまで、後数秒。
 




fin








先生設定がよほど楽しいらしいです(060513)
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