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05. 才能 「上手いもんだなぁ…」 「そ?新一のデザートは美味いよv」 相変わらずの器用な手つきを見て感嘆すると、黒羽がにこにこと楽しそうに言った。正直、こいつにデザートの飾りを任せたのは“自分でするのが面倒だから”という至極自分本位な理由からだったのだが…。しかもこいつの持ってきたデザインは複雑極まりないもので。どこのデザイン学校を卒業したのか?と真面目に問いたくなった。面倒なもの考えやがってと内心悪態を吐いた俺の目の前で、この男は仕上げは俺に任せて♪とのたまったのだ。 勿論その装飾の部品を作っているのは俺だ。(そこまでやられたら流石に立つ瀬が無いというものだ)いかんせん俺は見目を整えるという事に酷く無頓着だった。味さえ良ければ客はついてくる!と投げやりとも言うべき自信を持っていた俺だが、やはり女性は欲が深い生き物だった。それは黒羽にデザインを任せてからの売り上げを見れば火を見るより明らかだ。 「シェフってばきっと仕上げまで力抜かなきゃ、名パティシエになれるのにね〜」 「要は味だろ」 「ちっがう!ドルチェというものはね、見た目も込みで美味しさなの!」 「ふん、バイトが偉そうに…」 「ま、そのおかげで俺が役立ってんならいいけどね」 俺が作ったパーツを組み立ててゆく黒羽。それを眺める俺。こいつは何度言っても勝手に名前を呼びやがる。気まぐれにシェフと言ってみたり、含むところがあるときはオーナーと持ち上げてみたり。 「よし出来た!どう!?」 「いいんじゃね?」 「ほんと?」 「おお、女が喜びそうな皿だ」 「今月はこいつが首位取ったりして」 黒羽は言いながらキラキラとした顔で完成したそれを眺める。 そういえばこいつはそうだった。 「食っていいぞ」 「え?いいの?」 「デザインはお前の頭に入ってんだろ?」 「うん」 「早くしないと次のバイトに食わせるぞ」 「わわ、食べる食べる!頂きま〜す」 手を合わせたかと思うとぱっと何も無いところからフォークを取り出した。突然の事にきょとんとしてしまった俺を尻目に、黒羽は自分の作った装飾を破壊している。 「おまえ、いきなりすんなよ…びびるだろ」 「あ、ごめんね?つい癖でさ。ていうよりトレーニング?」 手品師の卵であることは聞いていたが、目の前でやられると心臓に悪い。こんな人間他に見た事がないからなおさら。 今出したってことはずっと服のどこかにフォークがあったってことだよな…?一体どこに?痛くないのか? 「ご馳走様〜」 早々と平らげた黒羽は席を立って、皿を食器洗浄機には入れずに鼻歌交じりに自分の手で洗っている。 最近知ったのだが、黒羽はマジックの世界では相当有名らしい。デザイン業でも食っていけそうな気さえするのにマジックの有望株だなんて。黒羽を見ていると自分が酷く平凡な人間に思えて参る。 本来ならばこんなところでバイトをしている場合じゃない人物なのかもしれない。若いうちにラスベガスでも行った方が将来の役に立つんじゃないか? 「おまえ勿体無い生き方してんだなぁ…」 なんだかここで無駄な時間を費やさせているようで気の毒になってきた。 知らず憐れみの視線を送っていたようで。黒羽は俺の言葉に満面の笑みで答えた。 「えー?俺今すげー幸せよ?」 その顔が本当に幸せそうだったので、俺は二の句を告げなくなってしまった。 fin (060306) |