01. 悩み





人間、寝る前に考える事が、その時々で一番心奪われている事柄なのだ。  by 工藤新一


 近頃めっきり不眠症だ。小説も読み飽きて、睡眠欲の薄い自分ですらいい加減床に就きたいと思う午前3時。
「ハァ…」
 眠れねー……
 肌寒さを感じて布団を引き上げる。枕に顔を埋め、白い布団に包まって、暫しぼーっと部屋のサイドボードを見つめた。
 ………カタ…
 遠慮がちに、だが自分に存在を知らせる為に態と立てられたと解るその音。
 緩慢な動作で窓を見遣れば、そこに佇むのは予想に違わぬ人物だ。
「夜分遅くに申し訳ありません」
 シニカルに微笑み、厭味なほど洗練された雰囲気を伴って現れた怪盗。
 人の気持ちも知らず、ポーカーフェイスを崩さない相手を睨んだ。
 俺ばかりが悩んで、寝れなくて、バカみてーだ。
「何か?」
「別に」
「そんな恨みがましい視線を送られると困るのですが」
「俺は元々こんな顔なんだよ」
「名探偵?」
 サイドボードに宝石を置き、徐に怪盗の気配が近づいた。
「顔色が優れないようですが…」
「最近睡眠が足りてないからな」
「貴方が自覚しているなんてよっぽどなんでしょうね…」
 怪盗がくすりと笑った。ムカつく。
 柔和なその眼に弱いのに。誰にでもするそんな仕草で俺の心を弄ぶ、憎い怪盗。
「今日も朝まで起きてるかもな…」
「なぜ眠れないのか、心当たりは?」
 カウンセリングでもするつもりなのか、怪盗が優しい声色で問いかけてきた。
「夜中、考え事が止まらない。考え出すといろんな感情が交ざってどうしようもなくなる」
「ほぅ…で、その考え事とは?差支えがなければ」
 予想外にも素直に告げた俺に、キッドの顔が真剣みを増す。
「お前のこと」
「え?」
「だから、お前のこと考えてるんだよ」
「…」
 怪盗は言葉を失った。
 俺には何故か、激しい眠気が襲ってきた。数日分の眠気が一気にきたかのように、ぷっつりと意識を飛ばしてしまったらしい。その後の怪盗の行動を全く覚えていない。
 そして、何故かその後、不眠症は解消されてしまった。


 その数日後、キッドと対峙した俺は思わず吹き出していた。
 キッドの眼の下のクマを見て。





end









(051030)
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