20. 小道




 俺の部屋に新一が居る。それだけで階段を上る足が軽くなる。



「体、大丈夫?」
「…ぅん……」

 後頭部に手をあて、髪を撫でながら問うと、新一が枕に突っ伏していた顔をこちらに向けた。
 行為の名残を残した表情が艶っぽくて、また求めてしまいそうになる。
 まだ少し汗ばんだ背中から白い項、細い首と新一の媚態に見入っていると、新一が一つ咳をした。

「あ、飲み物だったな……」

 そういえば、さっき一階に降りたのは、慣れない行為のために喉を痛めた新一に飲み物を持ってくるためだった。

「冷蔵庫見てきたけど、何もなかったからさ、コンビニ行って買ってくるよ」

 床に落ちていた上着を身に着ける。
 新一は未だ全裸でベッドに横たわっている。が、俺が服を着始めると同時にもぞもぞと体を起こす。

「何が飲みたい?」
「俺も行く」
「え、でも…」
「服、取ってくれ」

 着ちゃうのか…と残念に思いながら拾い集めた服を渡す。新一は無言でそれを着た。
 体を繋げた今、もう少し恋人らしくしたいところだが、数時間前まで会話のなかった二人が、そう簡単に馴れ合えるものじゃない。
 その原因は俺にある。気持ちを悟られることを恐れた俺は、新一から離れることで自分を制御しようとしたのだ。
 その結果、新一を長い間苦しめることになってしまった。
 腰を穿つ度にきつく抱きついてきた新一は、まるで傍にいてほしいと嘆願しているようだった。


 外は、昼間の暑さが嘘のように肌寒かった。
 だが、俺の心は、新一との夜の散歩に高揚していた。
 隣を見れば、少し伏目がちに歩く新一。俺の巻いた包帯が腕を隠している。
 まだ互いに戸惑いや照れがあって、会話は長くは続かないけれど、ぽつりぽつりと交わす言葉の一つ一つが俺にとっては大切なものだ。
 家から歩いて5分ほどのところにあるコンビニで、新一は水を、俺はスポーツドリンクを買った。夕食を食べていない新一に、炭水化物を勧めたけれど、この時間になると食欲がないらしい。


「新一、今までゴメンな」
「なんだよ、いきなり」

 もっともだ。帰路での短い時間で、俺は何を言いたいのか自分でもよくわかっていなかった。

「俺と話してない間、寂しいと感じたことあった?」
「……毎日だったよ、バカ」

 新一は、口を尖らせて言った後、すぐにそっぽを向いてしまった。
 その包帯の巻かれた、白い腕をつかんで、暗闇の小道に引き込んだ。

「ごめん」
「快斗…」
「もうあんなことしないから」
「うん」

 力いっぱい抱きしめると、新一もゆっくりと抱き返してくれた。
 ここは自宅手前の空き家の隙間の小道。外灯の届かない暗闇。

 俺たちはそこで何度目かのキスをした。







fin









(070625) これにてお題終わりです
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