14. 過ち





「ぃよっしゃあー!この勝負もろたで白馬!」
「フフフ、…このような下賤なゲームで黒羽君に勝つ日がくるとは思ってもみませんでしたよ…」
「何やってんだよ黒羽ー(怒!!負けたらどうなるかわかってんのか!?死ぬ気でやれよっ!!」

 近い距離にひしめく探偵たちが口々に何かを言っている。だが俺の耳には右から左に流れていくだけだ。

「ああ、またマリンさんがいらっしゃったようですよ黒羽君…」

 白馬五月蝿い。だいたいおめーにパチンコ台なんてメロンに生ハムくらい見た目ミスマッチなんだよ。最初はダーツにしろだの文句ばっかり言ってた癖に始まった途端乗り乗りじゃねーか。案外ギャンブルで身を滅ぼすタイプなんじゃねーの?

「黒羽てめー何でもいいから回せよ!負けたらどうなるか忘れたわけじゃないだろうな!」

 工藤うざい。普段スカしているこいつが珍しくキャンキャン咆えている。偉そうに言ってもお前だって当たりがきてねーじゃん。じゃんけんでペアになったからって俺に責任押し付けんなよな。

「ほんまこれが絡むとオールマイティ黒羽も形無しやな!はははっ!お、こらまたアツいでー」

 服部鬱陶しい。画面のマッチョな男見て喜びやがってよ…ホモかよお前。怖い親父に言いつけるぞ。パチンコで羽目外してましたよーってな。

「………俺、他の台で打ちたい…グス(涙」
「駄目や!」
「当然です。最初に台変えはなしと決めたはずです」
「そうやでーあと30分、みっちり打ち込むんやな。この海物語でな!ハハハ!」
「……………(←限界)」
「く〜ろ〜ば〜!これ終わったらぶん殴るっ!」
「その前にゲーセンやで。く・ど・う!」
「くっそ〜(怒怒」

 俺の憔悴しきった顔など完全無視で探偵たちは打ち続けている。奥の二人はとても楽しそうに、隣の工藤は苛立ちを隠さずに。ガチャガチャと音を立てて打つ工藤は、大当たりのチャンスをことごとく逃してきたらしく相当頭に血が昇っているようだ。
 因みに服部が言ったゲーセンというのは、負けたペアに課せられた罰ゲームの実行場所。確か言い出したのは服部で、その場の乗りでなんとなく決定してしまったものだ。世にもおぞましいそれを了承したのは、自分が負けることなど考えていなかったからで、負けた二人を思う存分笑ってやろうと楽しみにすらしていたのに。
 結果、自分にその不幸が襲い掛かることになろうとは……。
 いくら工藤が一心不乱に打ったところで俺たちに勝機は無い。俺が思うに工藤の台は今日一番のハズレ台なんだろう。そして俺は画面を見ずに打っているからほとんどスロットが回転していない状態。(眼を向けたが最後、卒倒する光景が広がっているからだ)

 終わりだ。そう思ってから数分後。果してその瞬間はやってきた。

「ほな、俺達の圧勝っちゅーことで」
「フッ、こんな手応えの無い勝負は久し振りですよ。君たちの愚鈍さには恐れ入りますね」
「……………(不機嫌マックス新一)」
「…………(に、逃げたい…この場から)」

 並べた箱は向こうが5箱、こっちはゼロ箱で二人合わせて出費が3万。勝負は俺達の惨敗に終わった。そして俺と工藤は無駄な出費をしただけでなく、この後最悪の罰ゲームがひかえているのだ。
 弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂とはこのことだ。



 平日の昼間とあって比較的人の少ないゲームセンターに俺たちは入った。ニタニタ笑いの止まらない服部から金を受け取って(パチンコで儲かったからこれくらいは払ったる!とのこと)華麗に装飾された異空間へと足を踏み入れた。後から渋々入って来た工藤はどさっと床に鞄を置いて不貞腐れた顔で俺を睨んだ。

「埋め合わせするからンな怒んなよ〜」
「お前にじゃない…あいつら、ぜってー仕組んでたんだ。端から黒羽の苦手なもんで勝つつもりだったんじゃね?」
「それでこんな罰言い出したってワケ?男のキス写真なんて見て嬉しいもんかねー…」

 百円硬貨を入れる度に機会音声が「後300円入れてね」とわかりきったアナウンスをしている。全部入れ終えると面倒な選択画面が始まって、俺は慣れないその操作に辟易した。

「工藤、わかってると思うけど、やるからには俺は完璧主義だから」
 逃げるなら今のうちだよ?タッチパネルの操作をしながら挑戦的にそう告げると、工藤の不機嫌な顔が少し和らぐ。
「コナンの時にも聞いたな。その科白」
 望むところだと眼で笑った工藤に、幼かった頃の容姿が重なる。
 いよいよ撮影画面に入ろうかという時に、工藤と向かい合って目線を合わせた。
 工藤は平静を装っているつもりらしいが、こちらには緊張しているのが手に取るようにわかった。スイッチは既に入れてあり、定期的にきられるシャッターの音が耳に入る。そして、俺が腰を引き寄せるのと同時に、覚悟を決めた工藤が俺を見上げて眼を閉じた。

「おー工藤、遅かったやん」
「俺はもう帰るっ!!」
「え、工藤君?」
「工藤!待てって!」
「黒羽君、一体何が……」
「ほらこれ、証拠写真。確かに渡したからな。俺ら今日はこれで帰っから」
「おーい、全然話が見えへんでー」
「俺はこれから工藤の御機嫌とりで忙しいんだよ!じゃあなっ」

「……行ってしまいましたね」
「こんなことならもっと近くで待っとけばよかったなぁ。んで、アレはどいなってんねん(ニヤニヤ」
「ああ、そうでした。先程黒羽君から預かりましたよ、こ…れ……・・・・・・」
「おわっ………黒羽のやつ…」

 写真を見た二人は、次の日大学でどのような顔をして彼らに会えばいいのかと真剣に考え込むのだった。


「工藤ー!歩くの早いってー」
「ついて来んな!」
「何そんな怒ってんの?罰ゲームなんだからしょうがないじゃん」
「だからって……ベ、ベロとか、…他にも……有り得ないだろっ!」
「だって工藤の顔してたら入れたくなったんだもん!」
「い、いれるとか言うなー!」
「ねぇねぇ、話したいことあるから取り敢えず工藤ンち行こうぜー」
「おい!腕引っ張るな!勝手に決めるな!」
「はいはい早く行こうねー」



* 明くる日


「お、お前ら何やその手は………!?」
「また何か企んでいるのですか……?」

 大学の食堂のいつもの席で俺と新一が座っていると、いつも通り白馬と服部がやってきて怪訝な顔で俺たちの指が絡み合った手を凝視した。俺は喜色満面に、新一は照れてそっぽを向いて。

「「俺たち付き合うことになったから」」

 幸せ絶頂な俺は、固まる二人を他所に、新一と繋がった手を口元まで上げて新一の手の甲にんーvとキスをした。食堂といえども人目のつかない場所なので問題無い。
 新一は恥ずかしがって手を引こうとするが、俺がにこっと微笑むと顔を赤くして俯き大人しくなった。
 未だ何もリアクションを返さない二人を放って暫く新一といちゃいちゃしていると、先に動きだした服部が口を開く。

「…昨日、何があったか聞いてもええか……?」
「えー?ダメ」

 笑顔で返すと服部が脱力して肩を落とした。
 こいつらに復讐するのもいいが、新一のことに関してはキューピッドだから昼飯くらい奢ってやってもいいかな。
 上機嫌でそんなことを考えた俺だけど、昨日のことはやはり俺と新一の秘密だ。





fin









海は魚天国なので快斗くんにはきつかろうなと思ってできた話です
新ちゃんはもともと快斗君のこと好きだったのでしょう(060528)

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