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05. 存在 隣で寝息をたてている彼には秘密の話。 俺にはいけ好かない奴がいた。それはもう自信家で手の付けようのない自分勝手で我侭なお坊っちゃん。 俺らは度々顔を合わせて、その都度お互いを貶しあっていたっけ。冷静沈着でジェントルマンな俺にそんな下賤な真似をさせたのは後にも先にもあいつだけ。 とにかく気に入らなかった。口角を引き上げた哂いも、変わった色の瞳も。 今思えば、そこまで嫌うほどあいつの事を分かってなどいなかったけれど。それは所謂食わず嫌いとでもいうべき嫌悪だったのだと思う。 ある日。 いつもより手の込んだトラップを仕掛けてあいつに一泡吹かせてやろうと企んだ。仕掛けに倍の時間を費やし、彼が嫌でもやって来るように予告状で挑発もした。 だが彼は来なかった。 盗聴した警察無線では途端場で彼のほうからキャンセルの連絡が入ったと言う。 そんなの認められるか。勝負を放棄した彼への憤りから、俺はきのみきままで米花の洋館へ向かう。 日光をふんだんに取り入れるよう設計された大きなはめ殺しのガラス窓。それを介した月光を浴び彼はソファに座っていた。 「いえ、気にしないで下さい。よくあることですから…はい、では遺留品は後日本部まで持って行きますので」 「それなに?」 電気も点けずに一人携帯に喋っていた彼に不意打ちの言葉をかける。通話を終えた彼は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐにいつものように冷めた目で俺を見た。俺は彼の手にあるペンダントを指差して、月を背に彼を見下ろした。 疲れた様に髪をかき上げた彼は抑揚のない声で。 「今日の事件の犯人の忘れ物だ」 「なんでそんなものあんたが持ってんだ?」 「死ぬ直前に投げつけられたんだよ」 持っていたペンダントのチャームを弄って、カプセル状になっていたそれの中から小さな紙切れを取り出した。 「これが今日の被害者が殺した、今日の犯人の元恋人」 「犯人、死んだんだ…?」 「ああ」 「それで二課まで手が回らなかったワケか」 「悪かったな、警部だけじゃつまらなかっただろ」 「まぁ、ね…」 いつになく毒気のない工藤は気持ち悪くさえある。こっちはこっちでこの状況で悪態を吐くわけにもいかず、それから簡単な言葉を交わして工藤邸を出た。 帰路の途中(空中)で、はたと思い出した。 犯人を追い詰めて自殺に追いやる探偵は、殺人者と一緒だ。 そう言ったのは他でもない彼だ。 俺は勢いよく旋回してもと来た空路を戻る。 窓から盗み見た探偵は取り乱してなどいなかった。 唯テレビで自分が片付けた事件を見て溜息を吐くばかり。 読み取れる感情は限りなく“悲”であるのに実際の探偵は無表情。 俺は気付けばまた工藤邸の窓を開けていた。 助けたいとか、力になりたいとかそんな甘い感情はなかった。多分、自分と重ねてた。良くないものを溜め込んで、駄目になるところを見たくなかったんだ。 その人は一人で泣けない人だったから。 再度現れた怪盗に彼は冷たい反応を返した。それでも、得意の話術を駆使して頑なに閉ざされた彼の心を揺さぶると、彼は表情を崩した。 そして泣いた。たいそう綺麗に泣いた。 自分が殺してしまったのだと。手で顔を覆って肩を揺らせて。 肩に置こうと伸ばした手が酷く震えていて、漸く悟る。 本当は……ずっと… 薄い布越しにも触れられない自分の愚かさを歎きながら、俺は初めて工藤邸で一夜を過ごした。 あの日、イライラしながら向かった工藤邸でのできごとは俺の人生を一変させた。隣で寝ている新一の髪を撫でながら思い出す、出会った頃の馬鹿みたいにお互いを意識していた俺達。 今では新一は、俺の前でよく泣きよく怒りよく笑う。 そんな幸せを噛み締めて、俺は新一の肩に顔を埋めて目を閉じた。 end (060303) |