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04. 紅 眼を開けたら快斗の顔のどアップだった。 よくあることだから特に何も言わずに身体を起こす。最近暖かくなってきたのでついリビングで寝入ってしまったようだ。 ぼーっとする頭をかきながら快斗を見ると普段より3倍増しで締りのない顔をしていた。でもそんなことこの際どうでもよくて。 肝心なのは口唇。 それはもの凄い早さで俺の頭の覚醒を促した。 「てめーどの面下げてこの家の敷居を跨いでんだ……?」 「ええ?だって僕たち愛し合うもの同士愛鍵を持ち合う仲じゃ……」 「きえろ」 「ちょ、ちょ、新一?」 「そばにくるな」 「どうして…?」 「どうしてだぁ………?」 胸くそ悪ぃ……どう見たって女との密会帰りのお前に笑顔で接しろって? ハッ、生憎俺はそんな器の大きな人間じゃないんでね。 「てめーの口に聞いてみろタラシ男」 「へっ!?タラシ?」 ともすれば泣きそうな俺の前で、快斗は心当たりを探っているのか唸り声を発して考えて込んでいる。 もう終わりなんだ。快斗は心当たりが有り過ぎるのか、はたまたどうやって俺を傷つけずに別れを告げようかと考えているのか、次の言葉を告げない。 上手くいっていると思っていたのは俺の勘違いだったようだ。こんな風に向き合って話すのもこれが最後…。せめてプライドを保つ為に泣かずにこの場を凌ぎたい。 「いいよ、もう…女のほうに気がいくのは仕方のないことだし」 「だからね、こんなに可愛い恋人がいるのに女とかタラシとか有り得ないって…」 「じゃあなんなんだよ、お前の口にべったりついてるソレは」 「口?くち……って、ああ!」 快斗はようやく合点がいったようで、指で自分の口を擦ってその色を確かめた。 「あちゃ、けっこうついっちゃってるや」 「わかったなら出てけよ!」 冷静でいたかった俺も終には感情的になってしまう。 そんな俺に快斗は余裕の笑みで近づいてきて、俺を壁際へ追い詰める。 もう嫌だった。快斗を見るのも、女が触れた紅い口を見るのも。俺は悲しくてしょうがないのに、口角を上げた快斗はまるで俺を嘲笑っているよう。 おもむろに顎に手をかける快斗から眼を背けると、耳元で低く囁かれた。 「泣かないでよ、今種明かししてあげるから」 「泣いてねっ……!」 餞別のキスでもするのかと眼を閉じたが、口唇に感じる感触はいつもと違っていた。うっすらと眼を開けると快斗の顔はすぐ近くにあって、親指で俺の下唇をなぞっている。慣れない感触に少し腰が疼いた。 「えろい顔…これ気持ちいいの?」 「ち、ちがっ…!」 即答するのは逆に怪しい。言ってから気付いてももう遅い。 墓穴を掘って顔に熱を集中させた俺に軽く笑って、快斗は離した親指の腹を俺の眼前にかざす。 それは快斗の口と同じ色に染まっていた。 「こういうこと♪」 「は?え?」 「つまりー……ほら」 理解できないでいる俺に次に快斗が見せたのは、どこから取り出したのか手鏡。そこには毎朝見ている自分の顔。だけどどこか大きな違和感が…… 「なんだこの口、気持ち悪…」 「えー綺麗じゃーん!新ちゃん美人度30%アップ!」 「まさか……」 「寝てる姿があまりに無防備だったからさ、つい、ね。んであんまり可愛かったからちゅうvってね?」 「………」 「でも高い口紅だから簡単に移らないはずなんだけどなぁ…夢中になってやり過ぎちゃったかなー?」 新一が寝ながら俺を誘惑するからいけないんだよねーv 沸いてるんだ。きっとこいつの頭は。俺のさっきまでの覚悟は一体… 「で?新一くん。俺への疑いのお詫びはしてくれるんだろうね?」 しまった…!怒らせてしまった…! こうなったらもう駄目だ。勝手に口紅塗ったことを責めても何を言ってもいなされてしまう。 今は、こいつの行動を怒るより、魔の手から逃げるほうが先決…か。 end ネタかぶりしてたらごめんなさい…(060304) |