01. 風





いい加減に生きてきた奴ほど、恋に落ちると抜け出せない…かもしれない。  by 黒羽快斗


「…っくし!」
 あー、さみー。
 怪盗キッドとて人間なのだ。この季節にビルの屋上にいれば寒いし、くしゃみもする。人前ではしないから、これくらい見逃してくれ、親父よ。
「めーたんてーはいないしなー。どーすっかなコレ」
 月に無反応を示すトパーズ。綺麗だけど憎い。
 柵に寄り掛かってそれを眺めるていると、マントが風を受けてハタハタ揺れる。
「怪盗キッド?」
 背後からの声に、ハッと我に返り振り向いた。
「普通に入って来たのに、全然気付かねーのな」
「これはこれは名探偵。わたしを捕まえにいらっしゃったのですか?」
 馬鹿にした風の新一を気にするでなく、紳士然として振舞う。新一は制服のポケットに手を突っ込んで、怪盗に視線を寄こした。
「馬鹿となんとかは高い処が好きって本当なんだなー」
「好きで此処にいる訳ではありませんよ?」
「じゃあなんでいつもいんだよ」
「…さぁ?」
 理由なんて言えるはずなく、曖昧に笑う。と、新一が眉間にシワを寄せ、無言で手を出した。
「おら、返せ。もういらないんだろ?」
「そうですが…」
 尊大に差し出された手の上に、今しがた盗んだばかりのトパーズを乗せる。なんだか結婚式の指輪交換を連想してしまって酷く落ち着かない。勿論表情には出さないが。
「じゃあな」
 最小限の言葉を告げて、名探偵は背を向けた。
 寒さに猫背になるそれを見て、空気のような声で言う。
「す き だ よ」
・・・・・・・・・・
「あ、そだ」
「え?」
「ここ上がるのめんどくせーから、今度から違うビルにしろよ」
「それは保証できませんね」
「あっそ」
 顔を半分だけ振り向かせた工藤は、今度こそ扉の奥に消えた。残された俺は。
「……びっくりした」
 心臓に手を当てるとまだドクドクと大きく脈打っている。
 あんな絶妙なタイミングで振り返るなよな〜〜〜
 しかも面倒だから場所変えろなんて……
 これで今度の仕事の後は此処に来ない事決定だな。
 きっとこのビルの3分の1ほどの階数のビルにくら替えしてしまうのだろう。
 嗚呼、なんて浅はかなんだ、俺は。
「名探偵にとっちゃ此処はめんどくせーだけの場所、か……」
 俺たちが初めて会ったトコロなのに。
 確かに夜風が体感温度を下げるこんな場所だけど。
 俺にとっては神聖で。
 春になったらまたこの場所に彼を呼ぼうか。
 そして、今よりもう少し普通に話せるように。
 …なんて、そんな春の夜の夢、叶うものか。
 曖昧だ。曖昧なんだ。
 俺も名探偵も。俺たちの関係も。
 風はまだ冷たい。
 まだ彼には近づけない。




end









意味不明ですいません;(051107)
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