かわいい人







 この人は寝起きが悪い。

「おはよう、新一v」
「……ぅー…………」
「しんいちー、朝ごはんできたよー?」
「ぅ………んー、……」
「冷めちゃうよー」
「……も、ちょ……と」
 毎朝この通りの反応で、適当に答えると布団を頭までかぶり丸くなってしまう。
 起こし方は多々あるが、効果的なのは次。
1. 窒息寸前までキス
2. 寝起きエッチ
3. 虚偽の事件報告
 ベッドの前で一人考えて新一を見ると。
 枕から落ちた頭が僅かに布団から出ている。白いシーツに流れる黒髪を一房摘みあげ、一つ嘆息。
 上の方法だと覚醒は早いが大いに彼の機嫌を損ねる。今日はそれは勘弁だ。
 徐に布団を剥いで薄いシーツだけを彼の身体に巻く。そして間髪をいれずに膝の裏と肩を持ってふわりと身体を抱き上げた。
 まだ半分夢の中な腕の中の人は不思議そうに距離の近くなった俺の顔を見る。が、すぐに考える事を放棄して、首筋に頭を預けて瞳を閉じた。しっかりと俺の首に腕を絡めて。
「普段もこれくらい素直ならなぁ……」
 そんな風にこぼしても、意地っ張りなこの人が、時々何の前触れも無く素直になるからぐっとくるのであって。本人がわかってないだけに性質が悪いと思う。
 壊れ物を扱うように、そっと抱えたまま階段を降りると、僅かな振動に反応した新一が俺の肩に頬を摺り寄せる。同時に生肌の腕が首を滑る感触が何とも心地よかった。
「新一?先にお風呂入っておいで」
「………ん。……ぁ」
 脱衣所で降ろし、不安定に立つ身体を抱き締めながら耳元で告げると、何か言いたげな表情。
「一緒に入りたい?」
 それにニヤッと笑ってからかおうとするが、お寝惚け中の新一はふるふると首を振って。
「すぐ出る……待ってて」
 とろんとした瞳でそう言うと掠める程度に口付けてシーツを床に落とし浴室へと消えた。白いシーツから出てきた身体は同じに白く、所々に赤い痕が浮んでいた。
「待っててって、ココで?」
 独り言ちたが、新一が機嫌を損ねないようどこかの犬宜しくおとなしく待つ事に決めた。
 バスルームから漏れる水音を誤魔化すように、洗面所の大きな鏡で髪を整え、新一の服を用意して置いてある椅子に座ると、新一が曇りガラスからひょこっと顔だけを出してこちらをじっと見つめてくる。
「なに?」
「出るから……あ、…あっち向いてろ!」
「どうせ俺は新一の身体隅々まで知り尽くして…」
 みなまで言う前にシャンプーのストックが飛んでくる。赤い顔できっと睨む新一の眼は先程までのとろんとしたものでなく、いつもの新一のそれであった。
「わかったよ。そこに着替え置いてあるからね。早く着替えないと快斗くん襲っちゃうよv」
 新一に背を向けると、工藤邸の高い天井を見て、後ろの布擦れの音を聴く。
 焦って着替える新一の心中を察すると自然と笑みが零れた。
「快斗」
「終わった?」
「ん、はよ…」
 案外近くに聞こえた声に振り向こうとしたが、朝の挨拶とともに新一に背中に抱き付かれて固まった。
 きゅうと引っ付いた新一の腕が俺の腹筋の上で交差する。
「どうしたの?新一?」
「快斗、好きだよ………」
「もしかして…さっき言ったこと気にしてる?」
「………ちげーもん」
「意地っ張り、時々、素直でいいんだよ?」
「…………」
「それに新一の気持ちはいつもちゃーんと受け取ってるからさv」
 片方の手をそっと持ち上げて口付け、その手を引いた。赤面した新一の髪にも一つキスを落とす。まだ濡れた髪がしっとりと俺の口唇を濡らした。
「俺も新一が好きだよ。大好き」
「………ん/////」
「お腹減ったでしょ?髪乾かして朝ごはん食べよう」
「朝なに食うんだ?」
「新しいジャム買ったからパンだよ。あとはサラダとハムエッグv」

 二人でとる朝食が何より美味しいから。
 早く髪を乾かして、テーブルクロスの上で待っているジャムを開けよう。
 きっとその時漂う甘い香りより、今味わう新一の口唇の方がずっと甘いだろうね。

 黒羽快斗、17歳。かわいい人に振り回されて、それでも幸せな日々の一幕。





end














山なし落ちなし意味なし。落雁より甘い・・・・・・。
ともかく2万ヒットありがとうございました〜v



coco-popo:ニナ