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encounter 「警察もこんなガキに頼るようになったら終わりだな」 初対面の第一声がそれだった。 容赦の無い台詞に腹ただしさと可笑しさが同時に込み上げる。 この人は嘘が吐けないんだろうなぁと思うと可笑しくて、明らかに自分を見下げる視線にイラついて。 それきりその人と進んで話すことは無かった。 その日は夏の暑さに加えて雨が降っていた。むしむしする皮膚感に苛つき、車に乗るなりすぐに背広の胸ポケットを漁って煙草とジッポを出す。慣れた仕草で車の発進と同時に火をつけた。 「湿っぽいたらねぇな……」 雨音は次第に大きくなり、ワイパーを最大にしなければ視界が確保できぬほどになる。いつもより長く働いた後のこの雨は大層鬱陶しい。警視庁を出て、まっすぐ帰路につく。こんな日はおとなしく家で酒でも飲もうと考えていたからだ。 信号待ちをしていた松田はふと窓の外に目をやる。その時、不意に雨のせいもあって人通りも疎らな道で、傘も差さずに歩く人物を助手席の窓越しに見た。車の進行方向とは逆に歩く人物。薄い青のはずの制服は水分を吸って黒に近くなっている。俯いて前髪が視界を遮る事に構わず、重そうに鞄を手に提げて今にも倒れこみそうだ。 あれは……工藤、新一…………? 青になった信号を飛び出して、他に通行する車のいない事を確認した。ギアを落とし、大きくハンドルを回して180度車を旋回させる。 松田がここで新一を見たのは全くの偶然であった。滅多に会うことの無い相手。警視庁で会ったとしても目も合わさない相手。それなのに、今こうして無理をしてまでその姿を追ってしまうのは、松田の勘が新一の異状を感じ取ったからだ。 「おい!お前っ……」 ……… 「探偵だとか言ってるお前だよ!」 ……… 「てめー、シカトしてんのかよっ!」 ……… 「工藤っ!!」 わざわざ大雨の中、車の窓を開けて呼び止めているというのに一向に返事を返さない新一に、一際大きな声で名前を告げた時。 新一はゆっくりと地面を見ていた顔を松田の方へよこした。それはそれは本当にバケツの水をひっくりかえしたような酷い濡れようだった。 「……あなたは、爆発物処理班の…」 「松田だ」 「……僕に何か?」 「俺も一応警察なんでな。日本警察の救世主を水浸しのまま放っておくわけにはいかないだろ」 からかいを含めて新聞が囃し立てるその名を言うと、新一は明らかに顔色を悪くした。 「気に、しないで下さい……大丈夫ですから。……ご迷惑おかけしました」 蒼白い顔に薄く色を無くしそうな口唇。寒さの為か身体も僅かに震えていて。このまま「はいそうですか」と放っておけばどうなるかなんて、誰にでも予想がつくというものだ。軽く一礼してまた歩き出す新一に松田は一つ嘆息した。 「おい、迷惑かけたくないなら早く乗れ」 驚いた様子で新一が振り返る。だが、無言でこちらを見るだけで。 「これは命令だぜ?」 それでも動かない新一に痺れを切らした松田はついに車から降り全身に雨を浴びる。 「てめーが早く乗らないから俺まで濡れるんだろうが」 口に銜えたまま忘れていた煙草が一瞬にして消えて湿る。チッと舌打ちをしてそれを道端に吐き出すと、新一の腕を取って助手席に納めた。ほとんど無理やりに。 続く こんな出会いはどうさね |