Angel or Devil ?
「マツダさんv」
「げっ、新一っ!」
扉からひょっこりと顔を出した新一に松田はサングラスの下で驚愕した。恋人の突飛な行動には慣れたつもりだったが、まさか仕事中に現れるとは思わなかったのだ。
「お前、一課の用事すんだなら学校戻れよ・・・」
自分の周りの連中がモノ珍しそうに自分達のやり取りを見ている。爆発物処理班の間でも新一は有名で、松田が牽制しているため滅多に拝めないその姿を眼に焼き付けておこうと皆新一に視線を這わせている。
「俺、ここに居たら邪魔になる・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・え?」
同僚の視線にイラつき、チッと舌打ちをしていると新一が松田のスーツの裾を掴み上目遣いで心配そうに言った。松田に迷惑がられているのかと眼を潤ませて問うその姿は誰の眼にも扇情的に映る。
「邪魔じゃねーからとりあえずそこ座ってろ、な?」
新一の色香にくらくらするが何とか自我を保ち、新一をソファに座らせて自分も横に座り同僚から見えない場所へと誘導する。
「今日はどうしたんだ?事件は片付いたのか?」
「うん、あっさり犯人捕まって時間あったからマツダさんに会いにきた・・・・・・」
あまり嬉しそうにしてくれなかった松田に拗ねた新一はぼそぼそと喋る。仕事の邪魔をするつもりはなく、ただ単にデスクワークをしている松田を見てみたかっただけなのだ。
「マツダさん、俺もう帰るよ」
よく考えると居ても何の役にも立たない自分がここに来ることは仕事の邪魔以外の何者でもない。現に今松田は仕事を放り出して自分を宥めている。
「新一、ちょっと待てっ」
咄嗟に松田は新一の腕を掴み引き止める。
「なに?」
「まだここに居ていいから」
「でも・・・・・・」
「いーから、俺の仕事が終わるまでここで待ってろ!」
こんなに寂しそうなオーラを放っている新一を外に放り出していいわけがない。
それによくよく考えてみると自分の仕事が終わるのを待つ新一が同じ部屋にいるなんて、至極幸せなことなのではないか。そう思うに至り松田は新一の頭を撫でて「な?」と新一に言い聞かせる。
「わかった、待ってる」
ぱっと笑顔になった新一を見て一安心して松田は机へと戻った。
いくら彼でも、いつでもどこでも爆発物を解体しているわけではない。机に向かって作業する日も度々ある。事務的な作業は苦手だが新一が待っているなら!と俄然やる気になっていた。
「おう!珍しい奴が来たもんだな?」
「お久し振りです、荻原さん」
「はぎわらだっ!何回間違えりゃ気が済むんだお前はっ!」
にっこりと笑顔でおぎわらさんと言い、間違いを指摘されてもどっちでもいいでしょ?と口だけで笑みを象る。
言わずもがな、間違えたのはわざとだ。
「頼むから俺の前でもしおらしい工藤新一くんでいてくれよ・・・・・・」
「めんどくせーよ」
どうせばれてるんだし?
萩原はハァ〜とタメ息を吐いてソファに踏ん反り返っている少年を見た。端正な顔立ちに聡明で可愛らしい仕草をされればあの親友が堕ちてしまうのもわかる。だが、彼はこの少年の本性を知らないのだ。
「俺の親友振り回すのもほどほどにしてくれよ?」
いつになくバリバリとデスクワークをこなす松田を見て原因に見当をつけて萩原がこぼす。
「俺はただ早く終わったから寄っただけですよ?でもマツダさんが待ってていいって言ってくれたから待っているんです」
妖艶に微笑む彼から漂う邪気はなんなのだろうか?萩原には黒い耳と尻尾の生えた悪魔にしか見えなかった。
「お前、あいつがそう言うように誘導したんだろ?」
そういうことが恐ろしいほど得意なのだ、この少年は。
「人聞きの悪い事言わないで下さいよ」
うっすら笑顔を浮かべて足を組んでいた新一が突然足を直し、にっこりと人好きのする笑顔になって萩原に話しかけた。
「萩原さん、仕事しなくていいんですか?」
「そーだぜ、何やってんだよお前」
「松田!」
松田の気配を感じ取り、外面を変えた新一にこいつ本当に何者なんだ!?と萩原は思ったが完璧な猫を被っている新一相手では松田に何を言う気にもなれなかった。
「珍しい奴が居たもんだからさ・・・・・・」
「ちょっと萩原さんとお話してたんですよ」
「変なことされてないだろうな?」
「ちょっと待てっ、松田!俺がそんなことすると思うか?」
「あ、そういえば・・・・・・・・・」
「なんだ?なんかされたのか!?」
人の話も聞かずに新一の意味深な発言にのみ反応する。そんな親友に萩原はダメだこりゃと諦めの境地に立った。
「冗談ですよv」
焦る松田にあははっと新一は楽しそうに笑った。ほっとした様子の松田だがまだ疑っているのか萩原をジト眼で見る。
おいおい、マジで疑われてんのか?こんなやつに手出す勇気は俺にはねぇぞ。
しかし、松田、お前は骨抜きにされすぎだ・・・・・・・
「新一、暇だろうからこれでも読んでな?」
「ありがとうございます。これ読んでみたかったんですよ」
松田が持ってきた分厚い書物には「爆弾解体新書」と書かれていた。その本を嬉々として受け取るのは知識を得ることに貪欲な新一であればこそである。
「オラ、萩原。お前も仕事しろ!」
「わかってるって」
普段はやる気のない松田を急かしているのにこれではいつもと逆だ。新一を見るともう本に夢中になっている。この少年の為に松田がやる気を見せているのだから彼の影響力は甚大である。
「お前も厄介な相手に惚れちまったもんだな・・・・・・」
「厄介?」
「いや、いい。こっちの話」
その後、記録的なスピードで仕事を終え、定時より若干早く帰宅しようとした松田を咎めた上司を新一の笑顔と松田の眼力でねじ伏せ、肩を並べて二人は帰っていった。
ジーザス・・・・・・・・・松田、早く気付けよ・・・
新一の魔性にまんまと嵌った松田に心の中でエールを送る萩原であった。
「マツダさん、今日マツダさんの家行きたい」
「いいぜ?泊まってくか?」
「うん・・・・・・//////」
なんて可愛い反応なんだと松田が感動している中、新一はちょろいな♪と影でほくそ笑んでいた。
.end
なにがなにやらわからん話になってしまいました。松新2つ目です。
子悪魔な新一に振り回されるマツダが書きたかったのに。本当はマツダに本性を知られると嫌われるのでは?と葛藤する新一、という選択肢もあったのですが、それは次回に後回しということで。