毎回彼に宝石を渡す瞬間が、短い逢瀬の中で一番気を張る時間だった。
 ・・・なのに彼が、自分の理性を試すかのように近づいて来たから・・・思わず言ってしまったのだ。


「私に触らないで頂きたい」






don't touch me.






「ごめ・・・っ・・・・・・!帰る!」
 そう言って愛しい彼は階段を駆け下りて行ってしまった。そして、それきり彼が現場に顔を出す事はなかった。
 カッコつけてあんなことを口走ったばかりに名探偵を失うことになった。あの言葉を聞いた彼は酷く傷ついた表情で、怯えた様子で自分を見た。一番最後に見た名探偵の顔が“怯え”たものだなんて最悪だ・・・


 最悪だ・・・あんなに嫌われてたなんて・・・あんな風に拒絶される位なら、近づかなきゃよかった。
 枕に顔を埋めて自己嫌悪に陥る。俺が手を伸ばさなけりゃ、触れ合うことはなくとも今まで通りに会うことはできたのに。
泣きたい・・・
 そう思っても涙は出ない。プライドなのか、悲しくないからなのかわからないが、鬱積を吐き出せない状態は辛く、重く圧し掛かる。声を上げて泣けたらもう少し楽になれるのに・・・と思いながらベッドにうつ伏せになり、睡魔が来るのをただ待ち続けた。

「名探偵」
 幻聴が聞こえた。ここでするはずのない声に今の俺は反応する術を持たない。
「名探偵、そのままでいいから聞いて下さい」
 隣に立っているらしいその人物は白いスーツを身に纏っていた。顔を横に向けて視界に入るのは青いシャツとネクタイで、顔までは見えない。
「お前、本当にキッドか?」
「はい」
「何で家に来た?」
「先日のことを謝りたく馳せ参じました」
「謝ることなんてねーだろ?触れようとした俺が・・・莫迦だった」
 緩慢な動きでベッドから起き上がりその縁に腰掛けた。漸くキッドと向かい合い、この息の詰まる時間が早く過ぎるよう視線を合わせた時・・・
「お前、なにその顔・・・」
「名探偵、お慕いしています。誰よりも、貴方を」
 俺の問いを無視して怪盗はのたまった。ポーカーフェイスを投げ出して何かを耐えるように俺に手を伸ばす。その顔には片眼鏡がなく月の光に照らされた顔がはっきりと見えた。
「触られたくないんじゃねーのかよ」
「貴方は誤解している。あんないつ警察が来るかわからない状況で歯止めが利かなくなったら大変でしょう?」
 くすくす笑いながら掌を頬に宛がう。滑らかな感触を確かめるように撫でて満足気に微笑んだ。
「・・・・・・・・・」
「名探偵、返事を聞かせて?」
「返事?」
「私は先ほど貴方に告白をしたつもりなのですが・・・」
「・・・・・・それくらい自分で悟りやがれ」
「フフ、そうですね。この痕が貴方の気持ちですか」
 そう言ってキッドは俺の頬に通る筋を撫でた。キッドが来てからの数分でいつの間にか泣いていたらしい。さっきまでの鬱積を全て洗い流した嬉し涙はキッドのシルクの手袋に吸い込まれていく。
「キッド・・・・・・」
 頬を包むキッドの手にそっと自分の手を重ねて上目遣いで誘うようにキッドを見る。
「煽らないで頂きたいですね・・・」
 妖美な新一の仕草にキッドの眼は欲望の色を露わにした。
「歯止めが利かなくてもいいから家まで来たんだろ?」
「・・・・・・知りませんよ、どうなっても」
 後ろにはセミダブルのベッドがあり、その縁に座って潤んだ瞳で見つめられては流石のキッドも理性など忘却の彼方である。
 頬に当てた手を顎の下に滑らせ、指先で新一の顎を上げて至近距離で目線を合わせる。眼で確認をしてから新一の肩を押して細い身体をベッドに沈めた。キッドもベッドに乗り上げて指を絡ませて新一の顔の脇に縫い付け、上から覆いかぶさる様に口付ける。初めからの早急な深いキスに新一の息が上がった。
「・・・っは、・・・がっつくな・・・よっ・・・」
 照れて顔を逸らす新一。キッドはニヤリと笑うと浮き出た首筋のラインに見惚れそこに舌を這わす。
「・・・・・・・・・・・・ッ!!」
 びくっと反応を示す新一に煽られ、手早く衣服を剥ぎながらその肢体の隅々まで愛撫する。

 はぁっ・・・・・・・・・アツイ・・・身体の芯から燃えるように・・・
 首、胸、脇腹、脚・・・キッドが触れたところから熱を、帯びる。
 こんな風になってしまうのなら、あの時触れなくてよかった、と朦朧とする意識の中そう思った。




.end












なぜか最後はベッドイン...あっ、キッドに謝らせるの忘れた...


















* 謝る為のおまけ




「なぜあの時、手を伸ばしてきたのですか?」
「あの時って、お前が触るなって言った時か?」
「その時です・・・」
 罰が悪そうにして肩に凭れる新一の小さな頭を撫で先を促す。
「よくわかんねーけど・・・宝石を月に翳した後のお前ってなんか危なっかしくて、父性本能をくすぐられるっつーか、構いたくなるんだよ」
「・・・そんなに情けない顔してました?」
 ポーカーフェイスを保てないくらい落胆していたのか、と少なからずショックを受ける。
「白馬とか警察は気付いてないと思うけど、すげー寂しそうな顔してる」
「新一・・・」
「っ!いきなりすんなよっ!」
 情事の後の倦怠感が残る中のキスに新一は赤い顔でキッドを睨む。
「そんな風に思っていたなんて知らずに、酷い事を言ってしまいましたね。あの時はすみませんでした。私を許して下さいますか?」
「許してなかったらヤらせねーよ」
 キッドの腕を枕にしていた新一は、言うなりごろんと寝返りを打ちそっぽを向いてしまう。
「愛しています、名探偵・・・」
「う、うっせー!とっとと寝ろ」
 後ろから抱き締めてきたキッドにそう言っても腕から逃れようとはしない。露わな新一の項にキスをして新一が怒る前にオヤスミと言って眼を閉じた。







この人いつまでキッド口調でいるつもりだろう・・・