I'll stand you a dinner.





「名探偵vお邪魔しますね」

 片手に白い靴を持ち窓のサッシに足を掛けた怪盗がそうのたもうた。
 場所は工藤邸の新一の部屋。月が沈む方向を向いた窓は怪盗の恰好の侵入口となっていた。
 新一のほうも今更それを咎める気はなく、宿題をしていた手を休め、呆れの中にほんの少しの悦びを滲ませた。

「また来たのか…暇な怪盗さん?」
「今日は予告日なわけですが…なぜいらっしゃらなかったのですか?」

 一課からの要請がなかった事など百も承知だと眼で告げて、腕を組んで不遜に問う怪盗。新一が椅子に掛けている為、自然見下ろす形となっている。

「白馬探くんがいただろ?」
「あい…あの探偵では私の食指を動かすに足りませんよ。それに、貴方の口からあの方の名前は聞きたくありませんね…」
「俺あいつと全然面識ないんだよなぁ…警視総監の息子ってだけで気が合わない気がするぜ」

 新一は椅子から立ち上がってキッドと視線を合わせた。それでもやはり身長差からキッドが下を見ることとなる。そのままついて来いとばかりに部屋のドアを開けて階段の方向へ歩く。

「名探偵、それで、今日来なかった理由はなんです?」
「どうでもいいだろ。宿題してたんだよ」
「そんな理由が罷り通るとでも?」
「じゃあ蘭とデートしてた」
「…冗談でも怒りますよ?それに彼女は遅くまで元気に部活に励んでいたようですし」
「…………」

 新一は階段を降りながらの質問攻めにとうとう言葉を失った。
 キッドのこの聞き方は答えを知りながら敢えて言わせようとしているものだと経験からわかっていた。それでも云いたくないことがある。半分意地になって適当な事を言っていた新一だが、キッドの声色が徐々に低くなっていくにつれ、追い詰められた小動物にでもなったかのような錯覚を覚えた。


「…俺のことを矯めつ眇めつ見ればわかるだろ……」
「もっとよく見ろ、と一言申して頂ければ嫌というほど見てさし上げるのに…」

 声のトーンを戻して、キッドは新一の言葉に眼を細めた。

 矯めつ眇めつ…いろいろな方向からよくよく見ること。
 あまりに可愛くてはっきり言ってくれなかった彼への不満など吹き飛んでしまった。回りくどい言い方だが、つまりは自分をよく見ていればわかるだろう、本当は言わなくとも気付いているのだろうという事だ。

「お前にこれ以上凝視されちゃ、生き辛くてしょうがねーな」

 後ろから階段を降りてくるキッドの表情こそ窺う事は出来ないが、声から嬉しそうに微笑んでいる事がわかる。新一はそれにふんっと子供のように剥れ、階下に足をつけた。

「………今度の予告には絶対に行く」
「くす……それにはまず体調を整えなくては、ね?」
「悪くなっても灰原誤魔化して行く」
「それはいけませんよ…私は貴方が来なかった事を責めているのではなく、隠し事をして欲しくないだけです」
「言ったらお前心配し過ぎるから言いたくねーんだよ…」
「全ては愛故です」

 にっこりと笑顔で言う怪盗に新一は顔を染めてそっぽを向いた。
 その後キッドは、喉の渇きを癒そうとリビングでコーヒーを淹れようとした新一の手を止め、何やらキッチンを漁り始めた。

「コーヒーなんて病人の飲み物ではありませんよ。まだ完全に治ったのではないでしょう?」
「もう平気だ」
「駄目ですよ、消化の良いものを作りますから、ソファに掛けていて下さい」
「お前が作るのか?」

 白い衣装のままキッチンに立つキッドに違和感を拭えず、新一は思わずまじまじとキッドを見つめた。既に卵を片手で割り始めている手際の良さである。

「ええ。具合の悪い貴方には私がオジヤをご馳走しましょう♪」
「お前って料理するんだ…」

 どこか人間離れした印象のあるキッドが鍋やら米やらを手にしている姿を見て新一は不思議な気分になる。と同時に料理をするにも画になり手際よくこなす姿を目の当たりにし、どこまで出来た奴なんだと感嘆した。

「名探偵、あちらで休んでいて下さい」

 いつまでもキッチンから出ようとしない新一にキッドは苦笑を漏らす。

「いい。ここにいる」
「…では、直に作りますね」

 好きな人にじーっと手元を見つめられて悪い気はしない。新一は料理を進んでする方では無い為どうしてもキッドの腕のほうが勝る。感心されているという事実に浸りながらキッドは嬉々として手を動かした。


 なんか…見直したかも………

 たかがおじや。されどおじや。弱っている時のこの労りは誰であろうとぐらっとくるものだ。
 新一も例に漏れず、若干頬を染めてキッドの手によって作られるものに眼を輝かせた。
 具合良くなったら、ご褒美やってもいいかな?など甘い事を考えている新一。



 が、その一瞬後、運悪く冷蔵庫のチルドを開けた怪盗のこの世のものとも思えぬ悲鳴を聞いた新一は、再びキッドに対する見解を修正するのであった。




.end




















さか●を見てしまったキッドさま。

(05.6.7 Ando Kyoka)