オーナー・シェフ
〜セクハラ発覚編〜




「工藤くん、ちょっといいかね?」
「…はい」

 いかにもお金持ちです!と言って歩いている風な男に新一が拉致られたのは、いつも通り店じまいをして帰ろうかという時だった。
 くそー、オレ達の愛を深める為の貴重な時間がぁぁ(快斗主観)
 厭々その鼻持ちならない男について行った新一を想ってふぅと溜息を吐く。
 変な事されてないかなぁ…新一美人だから心配だ…あの金ぴかな時計と色眼鏡、絶対碌な奴じゃないもんなぁ…ああ、お尻触られたりしてたらマジ急所蹴って一生使い物にならない粗末なブツにしてやる…(怒 あれはオレのもんだっ!
 徐々に心配から不安へ、不安から怒りへと感情が移り変わる。最後には男が新一にセクハラをする事が現実の様に思えてきて、額に青筋を浮かべて握り拳を震わせる。

「…ふぅ、…疲れた…」
「新一っ!!」
 がばりと抱き付かんばかりの勢いで帰ってきた愛しの君へダイブする。新一は慣れているのか特に焦りもせずに快斗をよろけながらも受け止めた。
「誰なの!?あのオヤジ!!」
「でけー声出すなよ…まだ上にいんだからさ…」
「わっ、ゴメン…で、誰?」
「このビルのオーナーだよ…」
 うわー、見た目どおりだな…それで新一も邪険には出来ないのかー…
「ま、まさかあの人に変な事されてないよね…?」
「は?変な事??」
「だって新一オヤジ受けよさそうじゃん?言っちゃ悪いけどあの人も好色そうだったし…」
「あー…お前って変なとこ鋭いよなぁ」
 うんうんと快斗に感心する新一。
 ってことは…
「触られてるのっ!??セクハラされてんの!?どこ触られてんのーっ!!!?」
「いや、触るってーか…舐める様な視線おくってきて、腰に手あてられるんだな、これが」
「…………………………っっぅ!!」
 いやぁぁーっと快斗はムンク宜しく叫ぶ素振りをする。が、あまりのショックに言葉にならない。
「黒羽?」
 何でこいつが過敏に反応するんだ?俺に同情してくれてんのかな?だとしたらいい奴だな、こいつ。
 的外れな新一はさておき、快斗は石化が解け始め、沸々と怒りが込み上げる。またも拳を握り締め、ビルのオーナーという手を出し難い相手にどう報復をするか、無駄にある知能をフルに活用するのだった。
「勿論、新一は嫌なんでしょ?」
「ああ、まぁ…正直勘弁して欲しいな」
「そうだよね」
 快斗は満足気に言うと、フフフと不気味に笑った。新一は先ほどのセクハラの数々を思い出してげんなりとしていた為その笑みには気付かなかったが。
「もう片づけは済んだしさっさと帰ろうぜ」
「うん。あ、今日本借りに行ってもいい?」
「前に5冊も持ってったのにもう読んだのか?はえーなー」
 消化の早い快斗に新一は嬉しそうに笑った。元々自分が好きで揃えていた本を読んでもらえるのは幸せだ。それによって他の人には通じない様な話も出来るし、何より、快斗と共通の趣味を持つことは何故だかとても嬉しいのだ。
 そんなほのぼのとした雰囲気の二人の背後から、
「おお、工藤くん!まだおったのか。どう?これから一杯飲みにでも」
「あ、すみません…今日はちょっと……」
 そのオーナーとやらは新一を目聡く見つけると一瞬で間合いを詰める。近い距離に新一の腰が若干引いた。快斗は心の内は激怒し、表面上はニコニコと人好きのする笑顔を浮かべていた。
 頑張れ!新一っ!そんな奴と酒なんて飲みに行ったら何されるかわかんないよ!?
 が、快斗の応援も虚しく。

「そんなつれない事言わずに、一軒だけでいいから付き合ってくれないかなぁ?」
「「……っ!」」
 言うとその男は太く弛んだ腕を新一の腰に回し脇腹の辺りを撫で回した。新一は気色悪さに顔を蒼くし、引きつった笑いを見せるが男は尚も執拗に飲みに誘う。
 し、新一の腰が!細くて形が良くて思わず撫でたくなる腰…って、それをしていいのはオレだけなのにっ!!
「えと、僕明日も早いので…」
「なんなら家で飲もうか?朝送ってあげるから泊まっていけばいい」
 一糸纏わぬ姿で夜明けのコーヒーを一緒に飲もうかって…?アハハハ。
 …っざっけんじゃねぇよ!!!この黒羽快斗が断じて許さん!!

「あの、バイトの分際で口挟んですみませんが…工藤さん今日は体調が優れないようなのでお酒は飲まない方がいいかと思いますよ」
「ん?何だね、君は?」
 突然口を割った若者を男は値踏みする様に見た。上から下まで視線を這わせ、顔を見てあからさまにイヤらしい笑みを象る。
「君は…少し工藤君に似ているな。バイトなんぞせんでもモデルでもして稼げるんじゃないか?」
「いや、ここのバイト好きなので卒業するまで続けますよ。それより、工藤さん家までお送りして寝かせたいのですが…ほら、顔色悪いでしょう?」
 あくまで自然に、新一を自分のほうへ引き寄せてセクハラの魔の手から解放する。腰に回した腕が離れたことに不満気なオーナーであったが、快斗が新一を受け止め、その頬に手を当てて呟くと、何故か途端に押し黙る。
「あ、ああ確かにそうだな…」
 新一は誰のせいだと思ってんだ…と内心悪態を吐き、助け舟を出してくれた快斗にサンキュと眼で告げた。快斗はそれににっこりと微笑み返し、失礼のないよう完璧な外面を作って
「では、お先に失礼しますね」
「ああ、お大事に、工藤くん…」
「はい、お付き合いできなくてすみませんでした、オーナー」
 まだ未練のある顔をするオーナーにこれ以上喋らせまいと快斗は新一を促してそそくさとその場を去った。

 残されたオーナーはというと。
 工藤くんをモノにできなかったのは残念だが、思わぬ拾い物があったわ…
 美青年二人が並んだ様を思い返してひっそりとほくそ笑んでいた。





 end









キモ