オーナー・シェフ
〜憂鬱編〜







「おはようございま〜〜す」
今日も快斗君が会いに来たよ、新一v

毎度同じようにバイクを止めて裏口からウキウキ気分で店に入る。
先に居たバイトを少し前に帰し、新一は一人でメニューを裁いていた。

「おう、今日も頼むな」

客も少ない時間なので新一はのんびりとフライパンを動かしながら快斗のまかないを作る。大学からの直帰で疲れているだろうとよく食べる快斗の為に大盛りのピラフとその上に目玉焼きをのせてやる。

「ほら、早いけど食っとけ。野菜食いたかったら切って食っていいからな」
「はーい、いっただきまーす♪」
いつもながら美味そうv 好きな人が自分の為に作ってくれたと思うと余計に美味しく感じるよなー
「あれ?もしかして玉ネギ抜いてくれた?」
「ああ、好きじゃねーんだろ?」
「ありがとうございます、オーナーv」
へらへらと笑ってピラフにパクつきながら言うと新一はにこりと笑って早く食えよと言ってホールへ注文されたデザートを配りに行ってしまった。

きゃー!本当に早く食わねーと新一を客に見られる!そんでファンが増えちまうー!!
そんなの嫌!と快斗はものすごい早さで、しかしちゃんと味わいながら料理を平らげた。新一が戻ってきたころにはしっかりエプロンも見に着け、いつでも働けますという格好になる。

「早・・・・」
「ごちそうさまでしたっ」
「おう。今お客さん途切れてるからまだゆっくりしてていーぜ」
「Oui!」
「ぷ、お前って大学の第二言語フランス語で取ってるのか?」
「そうだよー、ぱりじぇんぬみたいっしょ?」
「Oui以外聞いたことねーけど?」
「じゃあ・・・・・Je t'aime・・」
「Tu ne dois pas mentir.」
「え??」
なんかすげ発音のいいフランス語が聞こえたような・・・・・
「わかんなかったか?勉強不足だなー」
「マジ!?新一ってフランス語話せるの?」
「一時期住んでたからな。ある程度は」
「すっげ・・・料理の修業とか?」
「ま、そんなとこだ」
「じゃあさっきの何て言ったんだよー?まだ習い始めだからわかんねーよー」
「ひみつだ」
「そんな・・・めちゃめちゃ気になるし!つーかオレフランス語あんまりやってないんだよね・・・もうすぐテストなんだけど。新一、今度教えてくれる?」
「俺が?あんまり役に立たねーと思うぜ?」
「いや、時間ある時でいいからお願いっ!!」
両手を合わせお願いすると新一はしょうがねーなぁと言いながら了承してくれた。快斗は小説以外で新一との接点を見つけ心の中で狂喜した。

ぃやったぜー!あわよくば新一の家で教えてもらっちゃったりして、先生と教え子という新たな関係が・・・・・
「新一・・・」
「今は先生だろ?」
「先生、フランス語以外のこともいろいろ教えてくれますか・・・?」
って?くーっ!イイ!

「黒羽?」
「へっ?」
「大丈夫か?お前今意識どっか行ってたろ?」
「いや、ちょっと今日の大学で出た課題のこと考えてて・・・・・」
慌てて取り繕うと新一は大学大変なんだなと妙に納得していた。

それから客も少なく、することもないので二人で他愛もない会話をしていると店の入り口のほうから大きな声がした。

「くーどーーー!」
「あいつか・・・・・」
新一は声を聞いてすぐにそう言うと急いでホールへと出て行った。残された快斗は新一の知り合いでも来たのかと呑気に待っていたがなかなかオーナーが戻って来ないので自分もホールへと顔を出した。
すると図体の大きな色黒な関西弁の男と新一が隅のテーブルに座って談笑しているではないか。

なんだよっ、客いないからってそいつとお喋りかよっ!
快斗はムッとしながらも二人を放っておくこともできないのでそのテーブルへと(邪魔をするために)近づく。
バイトを始めてから1年未満である快斗の経験ではこの店に新一の知り合いが来たのはこれが初めてであった。他の時間はわからないが自分がシフトに入っているときに限ってはただの一度もなかった。だからか、新一に対しては一匹狼なイメージを持っていたが、色黒男と話す新一は年相応に見え、とても楽しそうであった。その時快斗は初めて、自分が抱く新一への想いは自身が考えるよりずっと深いものであることを知った。

「オーナー、その方のご注文はいいんですか?」
「ああ、そーいえばそうだな。お前なんか食ってく?」

足を組んで椅子に座る新一をかっこいいと思いつつも親しげな様子に沸き起こるジェラシーは止まらない。表情の固い快斗には気付かずに新一は笑顔で色黒と話す。

「そやな、いつもの頼むわ」
「オッケー」

いつものって何だ?という快斗の顔を見て新一はメニューにないの作るからお前は休んでいていいと言って冷蔵庫から普段使っているのを見たことのない食材を出し、てきぱきと料理をする。
できあがったそれは確かにメニューにはないもので、あの男の特別扱いに快斗は益々気分が悪くなる。さらに、皿をテーブルまで運ぼうとすると自分が行くからいいと快斗を静止し、新一はまたホールへと戻ってしまった。

ちぇっ・・・・・なんだよ・・・新一なんてずっとホール出てりゃいいんだ。来ないならオレが厨房乗っ取っちまうかんな!

快斗はムカムカしながらスケッチブックにデザートのデザインを殴り書きしていく。もちろんそんな時に思い浮かぶデザインは酷く攻撃的で雑になる。書き上げたデッサンはデザートとして店に出せるような代物ではなかった。

結局、新一がキッチンへ戻ってきたのは新たな客が入ってきたときであった。


「カルボナーラ1、アイスティー1でーす・・・」
注文を聞き手早くアイスティーを作って出すと他にすることもないので快斗はじっと新一を見ていた。こちらに背を向けて調理をしているため遠慮なく視線を這わすことができる。

細い腰・・・・・エプロン巻いてるとよくわかる。フライパン振り回してるわりには腕も細いよなぁ。
でも弱弱しい感じはしなくて、寧ろセクシィーな感じ?スタイル超いいし、顔ちっせーし綺麗だし。
この人が他のやつの恋人になるなんて考えらんねー・・・昔付き合った人がいるかなんて考えたくない。
相当惚れている。味見をした後舌で口唇を舐める姿に何度欲情したか知れない。


「カルボナーラ上がり」
「・・・・あっ、はい」

はっとして皿を受け取る。真剣に魅入ってしまって反応がワンテンポ遅れてしまった。自分の欲を孕んだ視線に彼が気付いたかどうかがとても気になった。

黒羽のやつ、随分思いつめた顔してたな・・・・・そんなにフランス語やべーのかな?よく考えたらあいつって工学部だから語学はつらいのかもな。
ならば力になってやろうと新一はいらぬ決意をしていた。


「あの人友達なの?」
カルボナーラを配り、キッチンへ戻ってきた快斗が下げた皿を食器洗浄機にかけながら新一に問う。
「ああ、学生時代のな。服部っつーんだけど、半年に一回くらい店に顔出すんだ」

学生時代を思い出して新一は懐かしそうに思いを馳せた。
そんな新一を見てやはりおもしろくない快斗はふーんとだけ言うとレジの精算に向かう。お客の女性に笑顔を振り撒き会計をしているとその横を新一がすっと通りすぎて例の男のもとへと行くのが視界に入る。快斗がまたかよとじろりとそちらを見遣るとふとその男と眼が合う。新一は背を向けているため気付かないが快斗は自然と睨むように服部を見ていた。するとその男は破顔して新一に何事か言い、肩をぽんと叩いて店を出て行った。
後には不思議そうな新一と怒気を孕んだ快斗が残されたのだった・・・・・


「お金もらわなくてよかったの・・・?」
「ああ、いつもそうしてるからな」
「・・・帰り際にあの人何て言ってた?」
どう見ても自分を見て何か新一に言ったのだろうと思い快斗は恐る恐る新一に聞いた。

「お前のこと・・・・・・・・」
「オレのこと?」
何て言われたんだ!?あいつはお前狙いだから気をつけろって?
快斗は我慢できずに敵対心を剥き出しにしてしまったことを後悔した。
だが新一の答えは予想外のものであった。

「“男前なバイト入れたんやなぁー”ってさ」
「え・・・・・そんなことだったんだ・・・」
「言われるまで気付かなかったけど、黒羽って確かにモテそうな感じだよな」
「そんなことないよ、今恋人いないし」
さっきまでのイライラはどこへやら、快斗は新一に遠まわしではあるが見目を褒められて(微妙ではあるが)、にこにこと人好きのする笑顔で話す。

「服部のやつ、俺のことは母さんに似てるとしか言わねーのにお前のことはタイプだってさ」
「え゛っ、ちょっと待って!あの人ってそうなの!?」
新一のお母さんなら間違いなく美人さんだろうが、そんなことよりもあの男が俗に言うホモならば新一の貞操の危機ではないか!それ以前に既にそういう間柄だったとしたら立ち直れない・・・

「違うって、ただの冗談だよ。本気にすんな」
焦る快斗に新一はきょとんとするとくすくすと笑いながら言う。快斗が自分の心配をしていたなどとは露程も思わない新一はやっぱり黒羽は男だから女の子以外と付き合うことを考えると拒否反応が出るんだろうなと思い、それが少し心に引っかかった。

「よかった・・・」
「でもいんじゃね?同性にも異性にもモテるんじゃん?お前」
「・・・・・じゃあ、新一は?」
「え?」
「新一はオレタイプ?」
話の流れに便乗して冗談ぽく聞いてみたかったことを聞いた。
「えー・・・と、その、なんだ・・・」
「なに?」
少し顔を近づけて、早く言ってと促すと恥ずかしそうに新一は小声で答える。
「・・・嫌いではない・・か?」
「なんで疑問系なんだよ〜?」
酷い!と快斗がおどけて見せると新一はほっとしたように肩の力を落とし、オーナー然としてそろそろ忙しくなると昼の混雑に向けて準備に取り掛かった。その時間帯には快斗の仕事も増え二人とも無駄口を叩く暇もなくなる。
快斗は新一の嫌いではない発言を原動力にいつも以上にきびきびと働いた。
そんな快斗を見て新一はわけのわからぬ感覚を持て余していた。


なんで普通に服部みたいに言えなかったんだろう・・・?黒羽は男の俺から見てもいい男だ。冗談ぽくそう言えばよかったんだ。なのに、お前の顔好きだとか男前だと思うとか言おうと思うとすげー恥ずかしくて、嫌いじゃないって言うのが精一杯だった。

ランチタイムに突入し、忙しそうに動く快斗を見ると両手の盆に皿を何皿も乗せてそれを厨房の水を張ったシンクに流し込んでいた。それを軽く濯いで洗浄機に突っ込む。その後注文のあったデザートを持ってまたホールへと慌しく出て行った。

ほんとよく動くよなぁ・・・前は昼は3人でもぎりぎりな感じだったのにこいつきてから2人で足りるんだよなー。こういうやつって何やらせても上手くこなすんだろうな。
顔も良くて有能で性格もいいって・・・・黒羽ってもしかして完璧?

ジャージャーと野菜を炒めながら新一はひたすらそんなことを考えていた。













快斗君のヤキモチになるはずが新一の(少しだけ)自覚編にすりかわってしまいました。

フランス語の部分は快斗→愛してるよ
新一→嘘つくなよ・・・
ってな感じです。意訳してますが。