5月4日
〜明朝の幸福〜
う〜〜〜〜〜ん、どうしよう・・・・・・
警視庁捜査一課には先ほどからひたすら首を捻り考え込む工藤新一姿があった。
「警部、工藤君事件が解決したのにどうしたんでしょうね?何か腑に落ちない点でもあったのでしょうか?」
「ワシにはわからんよ。高木君、ここは歳の近い君が聞いてきたまえ!」
「ええ!?」
「馬鹿ね、高木君。工藤君のあの思いつめた表情見てわかんないの?あれは恋煩いよ!」
新一から一歩引いた距離で検討違いなことを議論している一課の面々を尻目に車の鍵を片手にサングラスをかけた男が現れた。
「工藤、終わったんだろ?送るから来い」
「はい、ありがとうございます。松田さん」
新一はぱっと顔を上げて声の主を見ると満面の笑みで側で成り行きを観察していた一課の刑事らに挨拶をして松田の後にとことことついて行ってしまった。
「あのぶっきらぼうは松田くんじゃない!なんで工藤君のこと送っていくのかしら?」
「最近工藤君は爆発物処理班の部屋に行ってるらしいですよ」
「処理班に?何か用でもあるのかしら?最近は爆破予告なんてないし・・・」
「萩原さんてお喋りな方がいらっしゃるでしょう?あの人が解体の仕方を教えると言ったとかで工藤君は喜んで通っているそうなんですよ」
「へぇ〜、それにしてもあの松田君が送ってあげるなんてねぇ・・・わたしが夜道を一人で帰っても放っておく人が昼間に工藤君を送るなんてねぇ?」
「何ですか、その意味有り気な笑いは・・・?」
「気にしないで、こっちのことよ」
高木は頭に疑問符を浮かべたが美和子はそれ以上語ろうとはしなかった。
目暮に至っては既に机に戻ってお茶を啜っていて、この鈍感な刑事さんたちには死んでもわからないでしょうね・・・と美和子は一人状況を楽しむのだった。
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言うべきか、待つべきか・・・・・・でも松田さんが俺の誕生日なんて知るはずないし
「新一、すぐ帰るか?」
「え、と、松田さんに時間があるならどこかでご飯でも食べたいです」
「時間ならあるぜ。飯はどこがいい?」
「この前行ったところがいいです。美味しかったし」
松田が了承したことに安心して新一はまた5月4日のことをどうやって切り出そうか思案した。
取り合えず知っているかどうかは別としてこっちから5月4日に約束を取り付けよう。それで断られたら諦めるしかない。自分から言うのも虚しいし、松田さんはそういうの面倒だと思うかもしれない。ウザがられたら生きていけない、俺。
「松田さん、今度の水曜日お暇ですか?」
入った店で料理を食べ終わると煙草を吸う松田を見つめて新一が聞く。
「水曜っつーと4日か・・・わりーけど、先約入ってる。別の日ならいいぜ?」
煙草を傾げて灰皿に灰を落とす松田は普段と変わらない口調であった。新一は言いたい言葉を呑み込み、笑顔を見せてでは別の日にします、と物わかりのいい恋人を演じた。
思ったよりもこたえるなぁ・・・・・・心のどこかでは知っていてくれていると自惚れていたのかもしれない。
もし、俺がその日は誕生日だから一緒に過ごしたいと言ったら彼はどんな顔をするのだろう?
本当は言いたくて仕方がないけど、怖くて言えない。いつから自分はこんなにも臆病になったのだろうか・・・
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誕生日前日の新一は朝から背中に暗雲をしょっていた。隣家の科学者に鬱陶しいと言われ、外に出て来いとも言われたがゴールデンウィーク真っ只中に外に出て人混みに揉まれるのは御免であった。こんな時に松田にどんな用事があったのかと考えると途端に寂しさが増すので考えない事にする。
ツマラナイ時は時間が過ぎるのが遅い。
新一は気を紛らわそうと大好きな推理小説を読むが気が散って集中できなかった。何をするでもなく家の中でごろごろとして時間を潰す。
夜になるとコーヒーを飲んで膝を抱えた。時計はまだ夜の10時を回ったところ。
早く寝てしまおうと風呂に入り、寝酒で眠気を誘い二階の自室に入った。ビールにちびちびと口をつけると段々頭がぼやけてくる。こんな時は酒も役に立つんだなと自分の体質に感謝しながら新一はベッドに身を丸めて寝転んだ。
新一が寝てしまってから2時間後。工藤邸の門前にロータリー音が響いた。
スーツのズボンに手を突っ込んで堂々と工藤邸に入り、玄関の鍵を開ける。中が真っ暗なのを見て敢えて電気は点けずに静かに階段を上がった。二階の一番手前の左側にある部屋のドアをノックすると返事がない。なるべく音をたてないようにノブを回し中を見た。
こちらに背を見せて寝る少年が一人。丸まって寝るその背中からは寂しさが滲み出ている。
「泣くなよな・・・・・・こうして来てやっただろ?」
頬に残る痕を撫でると煙草を消して新一の頭に掌を忍ばせ、軽く口唇を合わせた。
すると新一の手がスーツの端を掴み僅かに笑みを見せる。
「ハッピー・バースデー、新一」
明日は笑って過ごせよ?お前の笑顔は何にも勝るものだから。
でも、意外と涙腺の弱い新一は嬉し泣きをしてしまうかもしれない。それを見てまたオレはお前を愛しいと思うのだろう。
松田は明日プレゼントを渡した時の新一の反応を想像しながら新一と手を重ね、目を閉じた。
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