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kid's tragedy 「キッド…どうしてここに……?」 「今日はキラが来なかったから、こっちから会いに来たよv」 キラの開いた口は暫く塞がらなかった。それもそうだろう、どこの世に仕事帰りに戦利品を持って、宿敵であるはずの探偵の家を訪れる怪盗がいようか。 キラは放心した。人に洋館と言われるこの家の大きな窓を開け放ち、その窓枠に立つその優雅さ。月を背にしている為その端正な顔の輪郭が浮き彫りになり、西洋の像のように美しいシルエットに魅了された…わけではなくて。 この怪盗なんでこんなに顔の締りがないんだろう… 「キラッ!この笑顔の理由は君に逢えているからだ!」 「あ…」 聞かれてたのかと口に手を当てた。どうやら考えていた事が声に出ていたらしい。 「キラ、どうしたらわかってくれるんだ?この俺の溢れる情愛を…!」 「あの…、僕のこと名前で呼ぶのはどうかと思うんだけど…」 仮にも怪盗と探偵なんだし… 情愛云々を無視してそう言ったキラにアスランは、キラをキラと呼んでこそ自分達の距離が縮まってまた一歩新たな関係を踏み出す事が出来るのだから俺の事もアスランと呼んでどうのこうの…と延々とキラの眠たそうな表情に気付かず熱弁をふるった。 話の最後には、だからこれからもキラと呼んでいいだろう?と聞かれ、眠い眼をこすこすと擦りながらキラは頷いていた。恐るべきアスランマジックといったところだろう。(単にうざいだけとも言う) 「それでキラ。どうして今日は美術館に来てくれなかったんだ?」 「…頼まれたけど、その前に殺人事件が起こっちゃったから」 「そうか、なら仕方がないな。暗号は解いてくれた?」 「うん…!すっごく難しかったけど楽しかったv」 いつの間にかアスランは窓枠から足を下ろし、靴をどこかへ消してヤマト家の床に立っていた。話しながら近づくアスラン。キラは揺れるモノクルが月の光を反射する様をじっと眺めていた。 「それは良かった。また作ってあげるからね、キラ」 「キッド…」 「キラ」 何故かモノクルの飾りの先から眼までを辿るようにじーっと見つめ、ぱしぱしと瞬きをした後落ち着いた声で怪盗の呼称を口にしたキラ。とても甘い雰囲気(怪盗主観)にキスくらいならさせてもらえるかもしれないじゃないか…!と怪盗が夢を見たのも一瞬の事。 「僕の気のせいかな…君オデコ広くなった?」 怪盗さん石化中。 「あれ?動かなくなっちゃった…もう僕と話したくないのかな?じゃあ着替えて寝てもいいよね?」 微動だにしないアスランを前にふぁ〜と欠伸をしたキラは明日の朝お風呂に入るから着替えて寝ちゃおう♪と怪盗の前で大胆に衣服を脱ぎだした。悲しい事に石化した怪盗がその玉の肌を拝む事はなかったが。 「―――――――ハッ!……キラ!?」 「…すぅ……すぅ」 やっと石化の解けた怪盗が見たのはベッドの中で天使のように安らかに眠るキラであった。 すよすよと眠るキラに暫し可愛い…!可愛いぞ俺のキラ!とはぁはぁした後、キラに言われた衝撃の一言を思い返しがっくりと項垂れる。 「なぜ気付いたんだ…?俺の額が0.3センチ後退したことに…!」 そうだな、いくら通気性が良いと言ってもこの時期に長時間帽子を被る事は(髪の)自殺行為だ。ならばシルクハット無しでいくか?だがそうするとバランスとスマートさに欠けるな…それにこの恰好はトータルで先代から受け継がれたものだ。父上(パトリック健在)め…自分の髪が危機だったから俺に引き継がせたな…!第一このコスプレチックなスーツは前から可笑しいと思って… 「んー…………」 はっ、キラ!(どきーん!) 寝返りを打ったキラに心臓を跳ね上がらせる小心者怪盗。これで今日は見納めとばかりにキラに近づき、その絹のように艶やかな栗色の髪を撫でた。するとキラはふわっと顔を綻ばせる。 「今度は現場でね、名探偵…」 名残惜しくて、窓枠に立ってキラを振り返る。すぅっと心地よい向かい風を受けながら、変わらず寝息を立てるキラに微笑んだ。 そして、ハングライダーを広げるスイッチに指を合わせて…押すのを辞めた。 風もよくないからな…。(遠い眼) そのまま二階の窓から飛び降りてヤマト邸の庭から道路に出た。とぼとぼと歩く後ろ姿が哀愁を誘う。 どうやらキラが些細な変化に気付くほど怪盗を見ている、という怪盗にとっては何とも嬉しい事実には気付かなかったようだ。 end 敬語も何もあったもんじゃないキッドアスラン… |